運転免許(一)
「陸の孤島」運転免許センターで実技試験の順番を待つ人々。
二月十七日、朝六時半、僕は雪の舞う中、アパートを出た。日本の運転免許を取りに行くためである。二、三日前まで暖かい日が続き、気温が二十度くらいまで上がることがあった後で、その朝は特に寒く感じられた。八時に、伏見区羽束師(はずかし!)という場所にある、京都府運転免許センターに行かなければならないのだ。そこは京都市の南の端、僕のアパートは北区にあるので、京都の街を縦断して行かねばならない。
今回、僕が日本に来た目的は、病気治療のため。言わば、これが「メイン・プロジェクト」。しかし、二月の間、このプロジェクトに進展はない。それで、僕は二つの「サブ・プロジェクト」を立ち上げた。一つは、「日本の運転免許を取ること」、もうひとつは「絵を描く」ことである。英国で国際免許証を取得してくれば、日本で車は運転できる。しかし、有効期限は半年間。将来、長期間に渡り日本に住むかもしれない僕は、この際、日本の運転免許も取っておくことにした。外国の免許を持っていると、日本の免許に切り替えることができる。その際、免許証が発行された国よって、「実技と学科の両方の試験を受けなければならない」、「学科試験のみ受けなければならない」、「実技も学科も免除される」の三つの場合がある。つまり、日本の警察が、どの程度その国の免許証を信用しているかによるのだ。幸い、英国の免許を持っている僕は、実地も学科も免除、つまり書類審査だけ。調べてみると、一日で終わるということであった。
地下鉄で終点の竹田駅まで行き、そこから三十分以上バスに乗って、僕は、八時十分前に京都府運転免許センターに着いた。バスを降りると吹雪である。周囲には何もない。まさに、「ミドル・オブ・ノーウェア(陸の孤島)」僕は慌てて、建物の中に入る。
「ここ、外と一緒やん。」
僕は叫ぶ。コロナ対策で、換気をよくするためか、センターの扉は全て開け放たれており、そこから容赦なく雪を乗せた風が吹きつけていた。
八時に「外国免許からの書き換え」のために集まった人々は、全部で八人、日本人は僕一人である。待っている間に少し話したが、スリランカ人、ベトナム人、アメリカ人、フランス人などだった。八時から、順番に持ってきた書類を係官に手渡していく。外国の免許証、パスポート、免許証の発行された国での在留証明、免許証の翻訳(僕はJAFで頼んだ)、写真、京都での住民票なのである。先ずは書類審査があり、それを通った人が次の実技、学科に進めるのだ。九時半ごろに呼ばれて、書類審査が通ったことを告げられる。先ずは一安心。後は、他の人々が試験を終える十一時半まで待つだけ。余りにも寒いので、免許センターの近くに、一軒だけあった喫茶店でコーヒーを飲みながら暖を取る。十一時になり、センターに戻ろうとすると、スリランカ人のチャモドがバス停でしょぼんと待っている。
「どうしたの?」
と聞くと、介護事業で働いているという彼は言った。
「落ちた。」