待つっきゃない
二月初旬の下鴨神社。梅が咲き始めている。
「ひょっとしたら、京都で花見ができるかも。」
僕は、そのとき思った。二月二日、第二日赤病院。僕は、担当のM医師と話していた。それまで受けた検査の結果が、出そろったところだった。
「やっぱり、根治には手術が必要ですね。手術をする方向で、話を進めましょう。」
とM医師。そのことは、ある程度予想していた。手術はI医師が担当するという。M医師が、「部長」と呼んでいたので、かなり偉い先生らしい。ただ、そのI先生、お忙しいらしく、二月中は予定が一杯。次の予約は、三月一日になるという。ちょうど、四週間先。
「四週間待たなあかんの?」
そう考えると、ぼくはさすがにうんざりした。三月一日にI医師に会い、それから手術の日程が決められるとする。そんなに簡単な手術ではないことは、僕も知っている。おそらく、手術の日程は、三月中旬から下旬。一週間くらい入院したら、もう桜の季節。
「正月に来たのに、花見が出来てしまう。」
僕は、自嘲気味にそうつぶやいた。僕のアパートに最初に来たGさんは、ベランダから大文字が見えることを知り、
「大文字の日にはここに見に来る。」
と言った。もちろん冗談。しかし、だんだんそれが冗談でなくなってきている。
仮に三カ月待つことになっても、三カ月後に確実に終わるならば、まだ覚悟もできるし、我慢もできる。日本に着いてもう一カ月が経とうとしているのに、まだ手術の日程さえ決まらない、何時まで待ったらいいのか分からないと言うのは、かなりストレスだった。ガッカリして、僕はアパートに戻った。
「とりあえず、二月中はもう何も進展がない。でも、その期間を何とか有意義に過ごさないと。」
と僕は考えた。先ずは、オランダ航空に電話をして、三月一日になっていた復路の切符を、四月一日まで一カ月延ばす。これだって、本当に四月一日に飛べる保証はない。いずれにせよ、一月二十八日から、オランダを含めEU諸国は、日本からの渡航を認めていないので、帰るに帰れないのであるが。
その後、僕は、日本の運転免許証を取っておこうと考えた。英国の免許を持っていれば、実技、学科の両方免除で、一日で免許が取れる。京都府警の運転免許課に電話をして、予約を入れ。翌日、英国の免許の翻訳を依頼しに、JAFへ行くことにした。
その日から、僕は少なくとも午前中を、ドイツ語と中国語の勉強に当てた。ドイツ語は例のK先生の授業があるし、中国語も週一回レッスンを受けているので、モティベーションは保てる。手術を待っている間、毎日各々二時間勉強すれば、かなりの進歩が期待できる。そして、僕は夜、絵を描くことにした。スケッチブックを買い、夜テレビを見ながら、絵を描いた。題材はもちろん「京都の風景」である。これは結構良い気分転換と時間つぶしになった。二日に一枚のペースで、僕は撮って来た写真を基に絵を描いた。京都にいる間に、一体、何枚の絵を仕上げることになるんだろう。英国に戻ったら個展ができるかも。