無洗米
出来上がり!ニシンと大根と頭芋の煮物。
「今日は何を食べようかな。」
僕はいつもそれを考えていた。十一日間自主隔離をしたGさん宅の離れは、Wi-Fi電波は飛んでいないし、テレビもない。何時もは誰も住んでいない建物なので、それは仕方がないし、前もって聞いていて覚悟も出来ていた。しかし、この世の中、インターネットは命綱。インターネットなしでは、外界と連絡が取れない。僕は、外出中にインターネットに接続する小さなルーターを持って来ていた。それを使って、メールが送受信出来て、非常に助かった。しかし、そのミニルーター、仕事でオンラインレッスンをしたり、YouTubeでビデオを見るほどの、キャパはない。今回、僕の日本語の生徒さんたちには、一月の最初の二週間はお休みしますと、前もって言ってあった。だから、授業をできないこと自体は、問題ないのだが。
六畳一間で、仕事も出来ず、外へも出られず。そうなると、食べることしか楽しみがなくなる。と言って、外食はできないので、自分で作るしかない。幸い、時間は有り余るほどある。僕はGさん宅に居るとき、食べ物にだけは凝った。この際、金に糸目を付けていられない。美味い物を買って、作って、食った。刺身なんて、二日に一度食べていた。
台所が離れになかったので、台所だけは母屋のものを使わせてもらっていた。そして、Gさんの分も合わせて、いつも二人分作っていた。
「滞在中、料理だけは作るね。」
と、僕はGさんに宣言していた。
「趣味:料理」
と、僕は最近履歴書に書いている。もともと、独りでも料理を作るのは好きだが、誰かに食べてもらうために作るというのは、特に力が入る。
ある日、Gさんが隣のスーパーで「身欠きニシン」を買ってきた。Gさんは、スーパーの閉店間際に行き、四割引きとかになっている食材を買ってくるという、「趣味」がある。その日は、ニシンが特売だったようだ。翌日は、ニシンと大根、頭芋の煮物というメニューになった。僕は母が、
「身欠きニシンを戻すときは、米のとぎ汁を使うのよ。」
と母が言っていたのを思い出した。誰が思いついたのだろう。
「Gさん、米のとぎ汁が要るんやけど。」
と僕が言うと、
「うちは無洗米や。」
そうだった。便利な無洗米も、意外なところで不便だったのだ。仕方がないので、水でもどして、煮物にした。翌日それを食べてみる。
「まあまあ、良い味やけど、ちょっと苦いかな。」
先人の教えには従わねばならないということ。