絆の翼

 

僕が自主隔離をしていた部屋。電気毛布の上で、布団を被って数日過ごした。

 

今この部分を書いている時点で、十四日間の自主隔離期間の半分が過ぎた。後、もう少し!僕が日本に着いた後も、イギリスでも、日本でも、コロナ感染者は増え続け、イギリスでは引き続き厳しいロックダウンが敷かれ、日本で幾つかの都道府県で緊急事態宣言が出された。英国では、変異種、新株と呼ばれるウィルスが極めて強い感染力を示し、周囲の国では、その侵入を食い止めるのにやっきになっている。

自主隔離期間の様子を、ある程度は予想していた。しかし、想定外だったのは、厳しい寒さと、自主隔離期間の政府、厚生労働省による監視体制だった。

 まず寒さ。普段、欧州の、セントラルヒーティングの世界で暮らしている人間にとって、冬場、日本の家屋での生活は辛い。とにかく、家の中が寒い。昔はそれが当然だったのだが、長い海外生活で、身体がそれを忘れてしまっていた。

「日本には、どうしてセントラルヒーティングがないの?」

娘がよく言う。

「どうしてだろうね?」

家全体を温めるという発想が、どうして日本にないのかなあ。特に、京都に着いて最初の数日は、本当に気温が低かったのと、身体が慣れていなかったので辛かった。前にも書いたが、電気じゅうたんの上で、布団を被って一日過ごす、そんな日々だった。「出来る限り」外出を控えるという中、幸い、離れを借りているお宅の隣が、スーパーとコンビニなのは非常に助かった。

僕は変異種コロナの元凶、英国から帰国した「危険人物」。そんな人たちを扱っているわけで、自主隔離期間中、もっと厳重に行動を監視されると思っていた。まさか、登録してある住所に、警察が調べに来ることはないにしても、GPSで行動を監視されることくらいは覚悟していた。しかし、拍子抜け。二日に一度くらい、自動音声で電話が架かってくるだけ。

「三十七度五分以上の熱がありますか?」

「咳や鼻水等、風邪の症状がありますか?」

という二つの質問に「はい/いいえ」で答えるだけで済んでしまう。と言うことは、風邪を引くと、コロナ感染に疑われてしまう。移動による疲れ、時差による睡眠不足など、風邪を引きやすいコンディションで、しかも慣れない寒さ。そんな中、

「風邪を引いちゃいけない。」

と言うのは、結構大きなプレッシャーだった。

 嬉しかったのは、自主隔離期間中、色々な人が、色々な形で気を遣ってくれたことだ。母屋に住んでいるGさん、濃厚接触者にならない範囲で、話が出来て楽しかった。母や叔母は食事を差し入れてくれた。また、妻は毎日電話をくれたし、息子や、友人たちも、電話やメールで、励ましてくれた。家族や友人たちの絆と、それが翼のように自分を包んでいるのを感じた。