アレックスに会った?
この状態で立っているのも大変な風だった。
先週コーンウォールに行ったと、帰ってきてから友人に話したら、何人かに、
「アレックスに会った?」
と聞かれた。「会った」というよりは「遭った」と書いた方がいいかも。「アレックス」とは、僕たちがコーンウォールにいた週の金曜日と土曜日、英国の西南部を襲った強い低気圧の名前だ。低気圧も、名前が付くようになって一人前。日本の台風のようなものだと思う。
「アレックスさんでしょ、お会いしましたとも。いや、お遭いしましたとも。」
木曜日の夕方から、発達した低気圧のため荒天になることは、天気予報で分かっていた。木曜日の午後、ホリーウェルという海岸を歩いているときに、既に雨が降り始め、僕たちはショートカットをして車に戻った。その日は、シャワーを浴び、アンコウ汁を食べ、ワインを飲みながらテレビを見ながら過ごした。テレビはケーブルなので、沢山のチャンネルが入った。ニュースは、トランプ大統領が、コロナに感染したことを報じている。ポート・ガヴァーンでは、ラジオはBBCしか入らない。おまけに、僕のを除いて、他の三人の携帯は近くにアンテナがないのか、電波が拾えないという状態。かなり田舎なのだ。
金曜日、朝起きると、雨と風が激しい。ちょっと外に出られる天気ではない。テレビがインターネットとつながるので、「ネットフリックス」で日本のアニメ映画を見て、午前中を過ごす。昼過ぎになって、風は相変わらずだが、雨は止んだ。
「歩いてみる?」
誰かが言いだした。ここまで来ると、もう「トレッキング中毒」。僕たちは、車で三十分ほどのナショナル・トラスト「ランディー・ベイ」に行ってみた。
「わあ、誰もいない。」
駐車場に一台も車が停まっていない。車のドアを開けて、二度目のびっくり。ゴォーッという、風が木々の間を抜ける音がしているのだ。ちょっとひるんでしまう。ともかく、僕たちは歩き出した。犬を連れたおばさんに出会う。地元の人らしい。
「あなたたち、『勇敢』な人たちね。」
と言われる。本当は「クレージー」と言いたかったのかも。
海岸を見下ろす丘の上に出る。吹き飛ばされそうな風が海から吹きつける。海は、砕ける波で真っ白。
「すごい!」
正直、エキサイティングな光景であった。しかし、間もなく雨が降り出し、僕たちは車に戻らざるを得なかった。
夕方、初めて外食をすることになり、ポート・アイザックのレストランまで歩いて行った。途中、岬を回るとき、岩に砕ける波の写真を何枚も撮った。寒かったけど、それなりに絵になる風景。コーンウォールで嵐に遭ったことも、良い思い出になった。
この風景、見られて良かったと思う。