奥の細道

 

崖と崖の間に、ときどき小さな砂浜がある。

 

コーンウォールの道路については、先にも書いた。海岸沿いに道がつけられていない。道路事情を理解いただくには、ちょうど魚の骨を思い浮かべていただければよい。真ん中に太い背骨があって、そこから上下に細い骨が端に向かって延びている。そして、魚の骨が端へ行くほど細くなっているように、コーンウォールの道路も、奥へ向かって走り、海岸に近づくにつれて細くなっていく。

「ホンマ、『奥の細道』や。」

僕は運転しながらつぶやいた。

東からコーンウォールに入り、ポート・ガヴァーンに行くに、まず、エクセターという町から「A三〇」という、片側二車線のミニ高速国道に入る。この道路は、半島のほぼ中央を走っており、魚の中にある太い背骨に当たり、なかなか快適な道だ。そこから別れて海岸に向かう。道はどんどん細くなる一方。「ポート・アイザック」の標識が出て来る頃には、車一台分しか幅のない道になる。

「対向車が来たら、どないしょう。」

と思いながら恐る恐る運転するが、コーンウォールもここまで来ると、滅多に車に出会わない。前から車が見えると、何とかすれ違えるところで待つ。数センチの間隔で車が通り過ぎて行く。

「わたし、ここでは運転したくない。」

と、最近運転を始めたミドリが言った。同感。自分で運転していても、結構すれ違いが怖いが、妻の運転の横に乗っているときは、もっと怖い。運転に関して言うと、「夫婦間の信頼関係」はない。妻の運転で、対向車とすれ違いが終わる度に、フーッと溜息が出る。

「ちょっと黙っててよ。」

と妻は機嫌が悪い。ところが、最初に車を擦ってしまったのは僕だった。

「ウェ〜ン、三週間前に修理したばっかりやのに。」

 海岸沿いに道路がないと、海から崖が切り立っていて、その上に波打つ台地が広がっているという風景になる。そして、その台地に、牛とか羊が飼われている。これが典型的なコーンウォールの景色。僕たちは、その崖の上を歩いていた。この、海を背景にした動物というのが、まことに絵になる。動物がいると、風景に何となく、柔らか味というか、温か味が出るのが不思議。

 崖に囲まれた小さな湾がいくつもあり、そこに浸食された岩のトンネルがあったり、小さな砂浜になっていたりする。屏風のような崖で囲まれた砂浜は、まさに「プライベートビーチ」。このビーチの住人が、アザラシ君たちである。崖の上から見下ろすと、アザラシの家族が、砂浜でゴロゴロしたり、波と戯れているのが見える。しかし、このアザラシ、病気で亡くなるのか、事故で亡くなるのか、よく海岸に死体が打ち上げられている。ポート・ガヴァーンの湾で、灰色の物体が波打ち際に転がっていると思って近づくと、死んだアザラシだった!ゲゲ〜ッ、ちょっと気持ち悪い。

 

 

ポート・クインの小さな湾。良い場所だったが、ここから帰るときに、車を擦ってしまった。

 

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