牛の天気予報

 

う〜ん、確かに座っている牛が多い。明日は雨か・・・

 

「これやったら、ギリシアと変わらへんやん。」

と僕は妻に言った。眼下には、ポート・ガヴァーンの、岩に囲まれた小さな入り江が見える。天気は最高。海はまだ夏の色。海から吹き寄せる風は柔らかい。コバルトブルーの海が、午後の陽光を反射している。ホント、ギリシアに来た気分。

ロンドンを離れた後、僕と妻は交代で六時間運転し、午後十二時半ごろ、北コーンウォールのポート・ガヴァーン村に着いた。途中、ストーンヘンジが直ぐ横に見えた。日曜日の朝ということで、道路も空いていて、スムーズな運転だった。

スミレが予約していた貸別荘の前に車を停める。家は、湾を見下ろす丘の上にあった。とりあえず、「辺りの様子をうかがいに」という感じで、僕たちは湾まで降り、右側の散策コースを歩き始めたのだった。海から崖がせり上がり、その上に、芝に覆われた台地が広がっている。

「天気が良けりゃギリシアと同じ。」

それは良く分かった。しかし、問題は天気。初夏から初秋へかけてのギリシアでは、晴天が「ギャランティー」されている。それに対して、コーンウォール、アイルランド、ウェールズなどの英国の西半分は、雨が多いことで有名なのである。晴天を、太陽を求めて、英国人は、地中海岸に飛ぶわけだ。季節風は大部分の場合西から吹く。そして、その海からの湿気を含んだ空気が、陸地にぶつかったところで、雨を降らせる。そこにコーンウォールがあるのだ。海の色はギリシア並でも、その海の色が見える日は限られている。晴天と海の色が「保証」されているギリシアとは、やはり違う。

海岸線に牛がいた。青い海をバックにした緑の台地に、白と黒のブチの牛がいる風景は、絵になる。

「明日は雨ね。」

とミドリが言った。

「どうして?」

「牛が立っていると晴れ、座っていると雨なの。」

「ふ〜ん、牛の天気予報か。」

その時は、座っている牛が多かった。そして、実際、翌日は雨だった。

僕たちは家を一軒借りていた。

「わあ、広い!。」

と言うのが第一印象。一階がリビング、ダイニング、キッチン、二階に寝室が三つある。浴室は一階と二階にそれぞれ付いている。ダイニング、メインの寝室だけでそれぞれ二十畳以上ある。隣に住むオーナーの娘さんによると、三年前に改装したばかりとのこと。きれいな家だった。設備も、台所用品から全て整っている。とは言え、最初、台所では「お勝手の勝手」が分からずウロウロ。でも、数回使ううちに、慣れて働きやすくなった。

 

僕たちが借りた家。丘の上にある大きな白いうちだった。

 

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