お父さんの仕事、その一
いかにも漁村という感じの、ポート・アイザックの街並。
うちの家族の場合、休暇中のお父さん、つまり僕の役目は、夕食作りと写真である。食事付きのリゾートやクルーズなら料理は不要だが、「セルフケータリング」、つまり自炊の施設を借りることも多い。そんなとき、夕食作りは大概僕の仕事。「普段は余り食事を作らないけど、キャンプへ行くと、急に張り切って夕食を作り始めるお父さん」って結構多いんじゃない?その一人が僕。今回も、せっせと夕食作りに励んだ。
着いた日、隣に住むオーナーの娘さんに、
「この近くに、魚市場ありますか?」
と尋ねた。坂を上った向こう側の町、ポート・アイザックの港に、魚を売っている店があるという。ちなみに、彼女のお父さんは漁師さんだったとのこと。
「楽しみ〜。」
期待が広がる。新鮮な魚、ひょっとしたら刺身も食べられるかも。僕は、愛用の包丁と砥石を、荷物の中に入れて来ていた。
最初の夜のメニューは「キムチ鍋」。スーパーで買った鮭の切り身と、持参した野菜、春雨、豆腐を煮込む。飯も炊く。先ほども書いたが、最初は台所の勝手が分からず、あちこちの戸棚や引き出しを開けまくる。
二日目、月曜日の朝、早速ポート・アイザックの魚市場へ行ってみる。ポート・ガヴァーンから岬の坂を上り、次の湾を降りたところが、小さな港になっていた。後で知ったのだが、ポート・アイザックは昔、漁港として栄えた場所だという。なかなか可愛い街並み。ギリシアの島を彷彿とさせる。
魚屋は、港の直ぐ横にあった。美味しそうなスズキに目が行く。体長四十センチくらい。目を見れば、先ほどまで泳いでいたことが分かる。二十五ポンドと少し高いが、一匹購入。
「わ〜い、これで刺身が食える!」
さて、夕方、トレッキングから戻った後、いよいよスズキを捌くことに。残りの三人も台所に集結して、スミレがカメラを構えている。
「緊張するなあ。」
「マグロの解体ショー」をやっている気分。包丁を念入りに研いだ後、スズキを三枚に下ろす。この前、刺身を作ったのは何時、どこだっただろうかと、考える。おそらく、前回はギリシアのミコノスで、タイの刺身を作ったという結論に達する。下した片身の皮を引き、皮、骨、頭は味噌汁にする。嬉々として料理をしている僕を妻が見ている。僕が言う。
「あなたも、料理と同じくらい、仕事に情熱を傾けられる亭主を貰ってれば、今頃、もっと金持ちになっていたのにね。」
「まあいいわ、美味しい物が食べられるなら、多少の金には目をつぶる。」
とのことだった。薄い桜色の刺身は、ムッチリとして美味かった。味噌汁も自然の味。冷蔵庫に入れておいたら、翌朝、ゼラチン質が固まって、傾けてもこぼれなかった。
これから、「解体ショー」の始まり始まり。