皿割りダンス

 

観客参加のダンスの夕べ。

 

一通り「ダンスが済んだ」(後ろから読んでも「だんすがすんだ」)ところで、今度は「視聴者参加コーナー」となる。観客がステージに集まり、簡単なダンスの手ほどきを受けた後で、踊る。最初はゆっくり。横一列になり、腕を伸ばし、隣の人とつながって。

「右足を前に、左足を後ろに、左へステップ・・・」

指示に従ってやる。ダンスは苦手。

「ズンチャ、ズンチャ。ズンチャ、ズンチャ。」

というリズム。しかし、ギリシア音楽の常として、テンポがだんだん速くなる。どんどん速くなると、最後は単にピョンピョン跳んでいるだけ。

 クライマックスは「皿割りダンス」。これは、十年ほど前、ギリシアのサントリーニ島に行ったとき、レストランでやったことがある。まず、素焼きの皿が観客に渡される。京都愛宕山の「かわらけ投げ」の皿とよく似ている。

「と言うても、例えがもっとマイナーなもんやし、説明にならへんけど。」

ともかく、ダンスが進み、ダンサーが合図をしたら、ステージの周囲に集まった観客は、一斉に皿を、床に叩きつけるのだ。そのとき、皿を投げる人は、

「オーパ!」

と叫ぶ。皿を割ることにより、不吉なことを払いのけるのだという。ダンスが始まる前から、モップとチリトリを持ったスタッフが二、三人待機しており、割られた皿は、手早く片付けられる。

 踊りの夕べが終わって、海に面したプールサイドのテラスで空を見る。もう十一時だが、空にはまだわずかに明るさが残っている。そこに金星と三日月が明るく輝いていた。

 リゾートホテルというのは、そこにいるだけで楽しめるようになっている。「三食昼寝付き」。食事のメニューも日替わりで豊富だし、プールサイドでは色々アクティビティがあるし、夜はショーも行われる。

毎日プールサイドでゴロゴロしているだけでも、まあ楽しい。と言うか、大多数の人は、一週間なり、二週間を、ずっとホテル内で過ごしているのではないかと思う。アルコールも飲み放題、それで日本円にして一週間十万円を切るお値段。

「まあまあ、お手頃な値段や、許せる。」

と僕は思う。ところが、これが夏休み期間になると、倍以上に跳ね上がるのだが。

実はトルコにも同じようなリゾートがあって、同じようなサービスが、二、三割安く受けられるという。それでも、うちの家族も含めて、大多数の人はギリシアを選ぶ。妻も、トルコを選ばなかった。

「やっぱ、『ギリシア』というネームヴァリューは捨てがたいよな。」

と僕と妻は同時に言った。 

 

皿割りダンスの後、床には割れた皿が散乱。しかし、あっという間に片づけられた。

 

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