一緒にやらない?
コルシカは山と海のきれいな場所だったという。
飛行機の中で眼を覚ます。六時間ほど眠った。また目を閉じる。飛行機の音や辺りの音は聴こえてくるのだが、目の前には別の光景が広がるという不思議な状況だった。
パリのシャルル・ドゴール空港で二時間ほど待ち時間があった。日本は真夜中の時間だが、よく眠って結構すっきりしている。待ち時間の間、出来るだけ歩くようにする。ターミナルビルの端から端から二往復し、待合室の椅子の間で、スクワットと腕立て伏せをやる。そんな僕を、ひとりの若いお姉さんが不思議そうな顔で見ている。
「どお、一緒にやらない?」
と誘うと、
「ノー・サンクス」
とのことだった。
ロンドン行きの飛行機に乗り換え、ヒースロー空港に着いたとき、激しい雨が降っていた。コルシカ組はその日の昼過ぎにロンドンに戻り、マユミが空港に迎えに来てくれているはずだった。入国審査の列が二百メートルくらいあり、それを通り抜けるのに一時間近くかかる。
「先進国でこれはないよな。」
と文句を言いながら本を取り出して読みながら順番を待つ。マユミの携帯に電話するが、彼女は電話を取らない。(電池がなくなっていたらしい。)
やっと外に出てマユミに会え、彼女の運転で雨の中家に戻る。車の中でコルシカの話を聞く。山も海もきれいな所だったけど、結構物価が高かったらしい。今回コルシカ行きをミスしたが、今後僕が生きている間に島を訪れることがあるだろうかと考える。家に帰るとスミレがいた。ダーラム以来の再会だ。
機内食を食べなかったので、食事は関空を発つ前にキツネウドンを食べたきり。台所で冷やしウドンを食う。ロンドンの夜十時ごろ床に入る。日本はもう朝の六時になっている。長い旅がようやく終わった気がする。
「この一ヶ月、自分の家で眠ったのは一体何日あっただろう。」
そんなことを考えながら僕は眠りについた。
翌週の日曜日、ピアノの先生のヴァレンティンの家で、発表会、「ミニ・コンサート」があった。ここ一ヶ月の間にドイツ出張と日本への一時帰国があり、京都では出来るだけ毎日練習するように心掛けてたとは言え、練習不足は否めない。
僕はソロで、「ショパンのワルツ」を、マユミとの連弾で「ブラームスのワルツ」を弾くことになっていた。ショパンのワルツは元々難曲で、もうはなからあきらめていた。しかし、連弾は間違えるとマユミに迷惑をかけるので、ブラームスはまともに弾きたかった。
結果は予想通り。最初ショパンはいっぱい間違えた。でも次のブラームスは間違えなく、何より楽しく弾けた。弾き終わって、本当にホッとした気分。
コンサートが終わって、庭で参加者によるパーティー。皆ホッとした表情。
<了>