時差ボケ克服法

 

病院の横の紫明通りではセミが一匹だけ鳴いていた。

 

叔母の家からの帰り、北大路駅前のスーパーによりマユミに頼まれた食料品を買う。彼女の作ったリストに載っている全部を買えなかったが、こちらも限られた時間で行動しているんだもの、多少は許してもらおう。買ったものを持って生母の家に帰り、そのあと一時間ほど眠る。今日は父の昼ご飯のお付き合いを堪忍してもらう。

時差ボケを早く調整するためには三つのことが大切だという。

@     適度の運動をする。(運動は身体を活性化し、体内時計の調整に役立つとのこと)

A     日光に当たる。(紫外線には、同じく体内時計の調整効果がある、体内時計が狂って不眠の人には、紫外線療法があるくらい。)

B     昼寝をしない。(つまり、その土地のサイクルで生活する。)

今回僕は、ママチャリで太陽の下を走っているわけで、時差ボケの調整には最良の状態であるわけだ。そう言えば、今回は夜も普通に寝られているような気がする。日本の本社から副社長や常務専務など「偉いさん」が英国出張に来ると、やたらゴルフを所望される。

「遊びに来てるんとちゃうで。」

と言いたくなるが、これは良いように解釈すれば、上記の@からBまでの時差ボケ対策のものなのかも。しかし今日はもうダメ。昼寝をしてしまった。

三時前にまた病院へ行く。三時半からは父のリハビリの時間。父はまず歩く練習から始めなければならないのだ。リハビリセンターは病院の三階にあるが、先にも書いたように利用者は若い人が大多数だ。おそらくサッカーやその他のスポーツで骨折、脱臼などをして、その後のリハビリをされているのだと思う。皆身体を動かすので、冷房もここは低めに設定されていて、Tシャツ一枚では寒い。

部屋の真ん中に、五メートルの平行棒のようなものがあり、歩く練習をする人は、両手でそのバーに掴まって歩くのだ。作業療法士のお兄ちゃんの指示による準備体操の後、父はそのバーを持って五メートルの歩行に挑戦。

「頑張れ。」

と運動会で我が子を応援する気分になる。父は無事反対側に到着。

「パチパチパチ、よく出来ました。」

拍手をしてあげる。

父はリハビリのときや食事のとき、ベッドから車椅子に移されるのだが、大抵ひとりの看護婦さんがそれをやっておられる。僕は昔同じことを祖母にして、三十キロの人間も持ち上げるとメチャ重いのに愕然としたことがある。看護婦さんがやっておられるのを観察するうちにそのコツが分かってくる。まず、患者の足の間に自分の右足を入れ、患者を首につかまらせ、できるだけ患者に自分の体重を自分の足で支えさせる。その後抱き起こし方向転換をやるのだ。

父はリハビリの後、疲れたのかしばらく眠っている。

 

病院の近くにある寺、本法寺の多宝塔。

 

<次へ> <戻る>