居眠りばっかり
父は「要注意患者」ということか、ナースセンターと直接つながった病室にいた。
父の昼食を見届けた後、十二時半過ぎ一度鞍馬口の生母に家に戻る。そこで少し眠る。
三時過ぎにまた病院へ行き、継母に今日の父の様子を報告する。数日前までロンドンに住み、父に関しては、完全に情報の外側にいた僕が、急にその中心になっている。それに戸惑いを感じる。
今日はほぼ一日父の傍にいて、それ以外は何もしなかった。こんな時間の過ごし方は初めてだ。でも悪くない。
日曜日。五時半に起き、六時から七時まで鴨川の畔を散歩する。朝食の後、少し横になってウトウトする。ロンドンは真夜中過ぎ。朝食の後は、どうしても眠くなる時間なのだ。
八時半に家を出て病院へ行く。
「お父ちゃん、ちょっと片付け物してくるわ。お昼には戻るし。」
と父に言って、十時二十分に病院を出て自転車で十分ほどのチズコ叔母の家に行く。ピアノの練習をさせてもらうためだ。
ピアノを弾き始めるが、時差ボケのせいか、他人が弾いているのを聞いているようで、妙に現実感がない。とりあえず、二週間後の発表会で弾く連弾の曲を重点的に練習する。終わってからスイカをご馳走になる。わざわざ鳥取まで買いに行ったとのこと。相変わらずフットワークの軽い叔母である。
病院へ戻るとちょうど父の昼食の時間だった。継母も来ている。車椅子に座った父は、コルセットがきついと母と看護婦に文句を言っている。父は背骨も傷めているのだ。
「文句が言えるくらい元気になったということや。」
と継母が笑いながら言う。その通り。
午後、母と交代して付き添いをする。眠くなってウトウトしてしまう。午後一時四十分、
「ちょいとFさんちに行ってくる。すぐ帰るよってに。」
と父に言って、自転車で従兄弟のFさんの家に向かう。父の姉の息子さんのFさんと奥さんは、僕が帰る前から何度も父を見舞ってくれていて、奥さんには、その様子をメールに書いてロンドンに送っていただいていた。その情報には非常に助かった。まず、何を置いても挨拶とお礼に伺わなければならない人たちである。
Fさん夫妻に会って話を聞くと、奥さんのお母さんがやはり高齢で、老人医療のための医療やリハビリの施設のことをよく知っておられた。大変参考になる。Fさんの奥さんが
「お父さんに使ってもらって。」
と言って下さったのが、デジタル置時計。文字の大きさが縦横五センチ以上あり、遠くからでもよく分かる。父がいつも時間を尋ねるので、それに対する心遣いだ。有難い。
Fさんの家の帰りに、いくつかの買い物を済まそうと思う。いつも買っていた烏丸通りの中古の本、レコード屋へ行ったら潰れていた。
バス停でバスを待つ人々。京都市バスの色はなかなかシックで気に入っている。