ツール・ド・マーブルク

 

新鮮なイチゴのたっぷり乗ったケーキ。

 

庭はマーゴットが丹精しているらしく、手入れが行き届いている。僕も庭仕事をするので、庭をこのレベルにまで綺麗にしておこうとすると、どれだけ時間がかかるか、想像がつくというもの。娘さんのノラにも会えるかと思っていたが、今タンザニアに行っているという。ノラは大学を終え七月から国際協力機構で発展途上国の援助の仕事をするそうだ。

とりあえず庭のテーブルに座り、お茶を飲みながら、イチゴケーキを食べる。イチゴは彼等が近くの農家から買ってきたものだという。マーゴットは午前中イチゴジャムとイチゴケーキを作っていたそうだ。新鮮なイチゴの乗ったケーキは上手い。今年はずっと天気が良かったので、イチゴも甘いという。

お茶の後、ピアノの練習をさせてもらう。

「あんたところに行ったら、とにかくピアノの練習をするからね。」

と前もって彼等には宣言してあった。

ピアノの練習をしている途中、マーゴットの妹のビルマが現れる。彼女は三十キロ離れた場所から自転車でやってきたという。往復で六十キロ。しかも延々と続く丘陵地帯。「ツール・ド・フランス」並みのことをやる人だ。僕はビルマとはあまり話さず、ピアノの練習に専念する。発表会まであと三週間。しかも、今週は全然弾いていない。ビルマとマーゴット夫婦は庭のテーブルで話をしている。

六時半頃、ビルマが帰ることになった。何せ十時まで外は明るいので、これから自転車に乗って帰っても何も心配することはない。

「なかなか良いBGMだったわ。」

とビルマが僕に言った。

「途中で夕立が来そうだったら車で救助に行くから。」

とジギ。

ピアノの練習を終えてまた庭に出る。マーゴットはせっせと庭木や花に水をやっている。

「大変だね。」

と声をかけると、

「庭仕事って、なかなか癒しというか、セラピーになるのよ。」

と言った。それはよく分かる。

夕食。ドイツ人の夕食はカルテス・エッセン、つまり冷たい物だ。大抵はパンとチーズとハムである。夕食後三人でワインを飲む。マーゴットはワインのせいか饒舌だった。彼等はノラを訪ねてタンザニアに行ってきたそうだ。しかしまだアジアの国には行ったことがないという。

「僕が引退して日本に戻ったら、絶対おいでよ。」

と言っておく。普段はノラが使っている庭に面した部屋で眠る。もう十一時なのに、まだ完全に暗くなくて、何となく光が残っている。もうすぐ夏至。この季節、外は完全に暗くなるのだろうか。

 

庭仕事をするマーゴット。癒しになるという。

 

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