サイクリング
山の麓の果樹園の中をサイクリング。
十二時半頃に始まった披露宴は、意外にあっさり二時過ぎには終わった。大部分のゲストが天津(ティエンジン)から貸切りバスで来ていたので、皆一斉にいなくなった。ゲストが帰った後で残ったのは、ゾーイ、ワタル、ハンさん夫妻と、僕たち四人。皆、やれやれという感じで、ホッとした表情である。改めて、
「お疲れさんでした。」
と杯を挙げる。三時ごろに一度部屋に戻って、横になる。僕も妻も、アルコールが入っていたので、眠ってしまった。
五時ごろに目を覚ますと、
「自転車を借りてサイクリングをしようよ。」
と妻が言う。娘たちとそんな話しになっているという。そう言えば、ホテルの玄関の前に、レンタサイクルが数台並んでいた。前にも書いたが、ホテルは人里離れた場所にあり、徒歩ではどこへも行けない。自転車なら、近くの町まで行けるかもしれない。
「自転車ねえ。」
僕は考え込んだ。一応、中国に来る前に、「タクシー」、「バス」、「列車」、「地下鉄」などの、交通手段の言い方は学んだ。しかし、まさか中国で「自転車」に乗るとは思っていなかったので、調べて来なかったのだ。
「グーグル翻訳で調べたらいいやん。」
とおっしゃるかも知れないが、中国政府と「グーグル」は犬猿の仲。「グーグル」、「グーグルマップ」、「Gメール」等、グーグルのサービスは中国では使えない。基本的に中国政府は、民衆がソーシャルネットワーキングを使って、勝手に情報を交換するのが好まないらしく、「フェイスブック」などもブロックされている。
僕は、自転車の絵を描いた。娘たち、妻と、階下のフロントへ行って、自転車の絵を見せ、指を四本立て、「スー」と言う。通じたようで、自転車の貸出用紙が出てきた。それは漢字で書いてあるので、書き込むのに問題はない。
通りかかったハンさんにも助けてもらい、自転車が四台運ばれてきた。サドルの高さを調整して、僕たちは自転車四台でホテルを出発した。僕が先頭を勤める。毎日馬牧場へ自転車で通っている僕が、一番扱いに慣れているから。
「パパ、中国って、どっち側通行なの?」
と後ろからスミレが聞く。
「右、右やからね。」
マユミが遅れる。転んだとのこと。そう言えば彼女は何年自転車に乗ってないのだろう。
十五分ほど大きな道を走った後、左手に「泉水」と書かれた岩のゲートがあったので、そこから脇道に入ってみる。細い果樹園の中の道、両側に桃やリンゴの木があった。前方に夕日を浴びた岩山が見えて、とても良い景色である。
リンゴの実は一個ずつ紙袋で覆ってある。随分、手間のかかる仕事だと思う。