中国語での挨拶

 

僕のなんちゃって挨拶の後で、ハンさんがまともな挨拶をした。

 

 ホテルの宴会場には、各々十人くらい座れる円卓が、六つ置かれていた。正面がステージ。僕たち家族は、ステージに一番近いテーブルに案内された。食卓を共にするのはワタル、ゾーイ、僕たち四人、ハンさんご夫婦、ハンさんのご両親の十人である。中国なのでもちろん、テーブルの上にはクルクル回るもう一つのテーブルが設えてある。

入り口の方が騒がしくなったと思ったら、ワタルがゾーイを抱っこして入場。それが、中国の伝統であるのか、

「お〜い、ワタル、奥さんを抱っこしろよ。」

と誰かが言ったのかは不明である。ゾーイはシルクの赤いチャイナドレスに着替えている。

 ワタルとゾーイがステージに立ったとたん、司会者が、僕と妻に向かって、ステージに上がれと促す。ステージに上がったとたん、「はいっ」という感じで、司会者が僕にマイクを渡した。

「へえ、やっぱり何か喋らなあかんの!?」

心の準備が出来ぬままに、マイクを持ってステージに立つ。この局面、ある程度は予測していた。僕は三カ月前から、「ユーチューブ」とCDで、一応「マンダリン(北京語)」の学習をしていた。(中国語には北京語と広東語があって、発音が全然違う。)日本語教師の僕は、生徒には、

「毎日、ちょっとでもいいから、日本語を喋ってね。」

なんて言っているのに、自分ではそれが出来ないだよね。余り熱心に勉強していなくて、三週間ぐらい前になって、

「こらあかん。」

と、必死こいてやり始めた。準備期間が少ない上に、僕の中国語には致命的欠点が。「ガ〜ン」、それは、独学なので、「一度も中国人相手に喋ったことがない」ということ。「ユーチューブ」やCDで、リピートはしているのだが、自分の発音が果たして正しいかどうか、チェックしたことがないのである。ともかく、中国語というのは、日本語や英語に比べて、はるかに例外の少ない、構造がしっかりした、論理的な言葉であることを知った。 

 ステージに戻る。ここまで来たら腹をくくるしかない。

「皆さんこんにちは。私の名前はモトです。ワタルの父親です。こちらは妻のマユミです。皆さんにお会いできて光栄です。どうも有難う。」

と言った。中国語では

「你好。 我叫Moto 我是Wataru的父 是我的妻子Mayumi 很高兴认识谢谢!」

と言ったつもり。でも、皆さんにはどう聞こえたか。一応拍手は貰った。ステージを降りる。ミドリが両手の親指を立てて、

「パパすごかったよ。一応、中国語みたいに聞こえた。」

と褒めてくれた。もちろん、ミドリは中国語を知らない。でも、拍手をもらったこと、「それらしく」聞こえたことで、今日は満足しておこう。

 

女性は赤い髪飾りを付けるのが中国の伝統とのことだった。

 

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