ひとつの家族
ハンさん一家とは、文字通り三日間寝食を共にした。
ピングウに着いた日の夜、夕方に到着した新郎新婦、ワタルとゾーイも含めて、八人で夕食の席に就いた。ホテルのレストランである。皆に茶が注がれて、乾杯をするとき、音頭を執ったハンさんが言った。
「We are one family from now!(これから、私たちは、ひとつの家族です。)」
この言葉、結婚が当事者同士の「契約」という感じになってしまっている、ヨーロッパではちょっと聞けない。中国人にとっては、結婚は家と家の繋がりでもあると改めて感じた。日本でも、僕たちが結婚した頃は、会場に「〇〇家××家御結婚式」と書いてあったものだが、今はどうなんだろう。
初対面なので、結構お互いの「バックグラウンド」から話が始まる。ハンさんと奥さんのエレンさんは、ティェンジン(天津)の出身だという。新婦のゾーイも中国生まれである。ハンさん一家は、ゾーイが小学生の時、シンガポールに移住、ゾーイは、シンガポールで大学を出ている。そこで、会社のシンガポール事務所に転勤になった息子のワタルに出会ったわけだ。ちなみに、家族で海外に出ているのはハンさんと奥さんのみ。これは僕たち夫婦と一緒。ハンさんのご両親や、他のご親戚は皆中国にお住まいなのである。今回、中国で結婚式が開催されることになった理由はそこにある。シンガポールにお住まいなので、英語を話される。
「韓先生、式に来られるご親戚は何人くらいなんですか?」
と尋ねる。僕は彼を中国式に「韓先生」と呼び、彼は僕を日本式に「モトさん」と呼ぶ。お互い相手の文化を立てているわけ。
「私の親戚が約二十人、妻の親戚が約四十人、全部で六十人くらいですかね。」
とのこと。ヒェ〜、新婦側が六十人に対して、僕たち新郎側はたった四人。多勢に無勢もいいところ。しかも、片言ながら中国語が分かるのは僕一人。当日は、なかなか大変なことになりそうである。
息子が結婚して、ゾーイが「義理の娘」になったわけだが、娘がもう一人増えたことは、僕にとって嬉しいことだった。ふたりが昨年の暮れに英国を訪れ、一緒に夕食を取ったとき、ワタルが、
「僕たち婚約しました。」
と発表した。父親として、何か言わなくては格好がつかない。それで、
「嬉しいニュースを有難う。今日は私の人生で、最も幸せな日々の中のひとつです。」
と、英語で言った。(日本語に訳すと変だが。)実際、それが正直な気持ちだった。
今回、新婦のご両親、ハンさんとエレンさんと丸々三日間過ごしたわけである。これは、とても良かったと思う。これから長いお付き合いになるのであるし、最初長い時間を過ごして、気心の知れた仲になっておくのは将来に対してとても有益であると思う。ちなみに、シンガポールに永くお住まいのお二人の英語は「シングリッシュ(シンガポール・イングリッシュ)」。正直、ちょっと分かりにくいのだが、中国に来て、コミュニケーションの手段があるだけでも、とても素晴らしいことに思えた。
ハンさんとは一緒に卓球もした。中国人だけあってメチャ上手い。ラケットの握りはもちろんペンホルダー。