ティーセレモニー
一人娘の結婚式、ご両親は感無量という表情。
土曜日、結婚式の朝、目を覚ましカーテンを開けると、雨が降っていた。前に見える湖や、それを取り囲む山々が雨に煙っている。
「雨の日の花嫁は 幸せになるという」
そんな歌があった。天気だけはどうしようもない。まあ、よいではないか。
その日の予定は、朝八時半から「ティーセレモニー」、十一時から「林の中の結婚式」、午後一時から会食というものであった。八時半、スーツに着替えて、ワタルとゾーイの部屋に向かう。妻は専門家に化粧をしてもらうとのことで、三十分早く行っていた。
「ティーセレモニー」、これについては、前日の夜、ゾーイから説明を受け、予行演習を済ませていた。この儀式、中国では、日本の三々九度のように、婚礼には欠かせないものとのこと。新婦は新郎の両親に、新郎は新婦の両親に茶を勧める。両親は、勧められた茶を飲み、赤い封筒を、義理の娘、息子に渡す。勧められた茶を飲むということで、家族の一員になることを許すという意味があるという。
彼らの部屋に入ると、息子もゾーイも、赤い中国式の服を着ていた。鮮やかな色で、色とりどりの刺繍が施されている。息子は、その服を着ている写真を、前もってメールで送って来た。僕はかなり好意的に、
「『ラスト・エンペラー』みたい。」
とコメントした。容赦のないミドリと彼女の友人は、
「ペンギンみたい。」
とコメント。息子はペンギンかも知れないが、中国式に髪を結い上げ、赤くて長い中国服を着たゾーイは、プリンセスのようである。ハンさんも今日はスーツ、エレンさんは、中国風のワンピース姿である。妻も肩を出したドレスを着ている。
ゾーイと彼女のお母さん、妻の化粧が終わり、九時過ぎにセレモニーが始まった。両親が一列にソファに座る。メーキャップ係の女性の他に、カメラマンが三人。儀式には、湯飲みの乗ったお盆を持つ係としてミドリが、お茶を渡す係としてスミレが参加している。白湯の入った湯飲みがゾーイから僕に渡され、僕はそれに口をつける。そして、ゾーイの両親が用意してくれた赤い封筒(多分お金が入っている)を彼女に渡し、彼女はそれを押し頂く。彼女は次に、妻に白湯を勧める。その後は、ワタルが同じことを、ゾーイの両親に対して繰り返す。これで、両家の「契り」というようなものが、取り交わされたことになる。衣装も、お盆も、湯飲みも皆赤い。中国では、赤がお目出度い色のようである。
ティーセレモニーは十分ほどで終わった。驚いたことに、ゾーイは儀式が終わるとすぐに、中国風に結い上げた髪を崩して、西洋風の髪型にしだした。
「ええっ、もう壊しちゃうの?もったいな〜い。」
と娘たちも残念がっている。朝、一時間以上かかって準備した髪と衣装は、わずか十分間のためだったのだ。彼女は、これから、白いウェディングドレスに着替えるそうである。
中国の結婚式グッズは、全てが赤いというか朱色。