中国のリゾートホテル

 

ホテルから見る湖は人造湖。美味しい鯉はここで獲れる。コスモスが咲いていた。

 

「ここは、『中国人の、中国人による、中国人のための』ホテルである。」

僕はそう宣言した。僕たちが三日間滞在したホテル「中信金陵酒店」は、山に囲まれた湖の畔、完全に周囲の世界から孤立している。色々な施設があって、このホテルに滞在して、ノンビリするという、典型的滞在型リゾートホテルである。ちなみに「酒店」(ジョウディエン)は中国語では、酒屋ではなくホテル。昔、宿屋は酒を飲むためにあったのかな。ともかく、このホテル、ブッキングサイトで見ても、結構良い値段がする。おそらくこのホテルで何泊もできるのは、中国人でもお金持ち階級。そう言えば、駐車場に停まっている車も、ポルシェあり、ベンツあり、高級車ばっかり。しかし、山の中というロケーションから言っても、外国人の観光客が来るような場所ではなく、あくまで中国人をターゲットにしたホテルなのだ。だから、フロント係が英語を話せなくても大丈夫なわけね。実際、部屋は広くて清潔で、部屋の窓から見える湖と、その向こうに聳える山々は絶景であった。

日本人としてこのホテルに滞在しているというのは、変な気分である。英国にいると、周りの人間が僕と違う人種で、違う言葉を話すことが当然。周囲の人間も、僕をアジア人として、ちょっと別の目で見てくれる。日本にいると、周りは日本人で、日本語を話している。しかし、中国にいると、周囲が僕と同じ顔をした人々で、しかも、何を話しているか分からない。これは、初めての体験だった。

基本的に、日本人も中国人も外見では区別できないので、向こうも安心して僕たちに中国語で話しかけてくる。そんな場合は、

「我不問(オープートン)!、分かりません!」

この言葉は今回一番よく使った。だって本当に分からないことだらけなんだもの。

リゾートホテルだが、欧州のそれと大きく違っているところがある。それは、

「夜になったら誰も騒がない。」

ということ。欧州のリゾートホテルだと、夜の十時ごろに若者たちがバーやクラブに集まり出し、「夜はこれから」という雰囲気で、真夜中過ぎまで盛り上がるのが普通。一日目の夜十時、

「寝酒でも一杯行くか。」

と妻とふたりで一階のロビーへ行った。ロビーの隅のバーに座る。客は僕たちふたりだけ。ビールを二本頼んだら、バーの従業員はすごく当惑した表情。

「もう仕舞うと思ってたのに。」

と言いたげ。ビールを二杯飲んで、現金で払おうとすると、

「おつりがない!」

と、従業運があちこち走り回っていた。ロビーは既に森閑とした感じで人影もまばら。

「夜は騒がないのが中国人。」

というのがその時分かった。

 

ホテルの敷地を一周するだけで三十分くらいかかる。朝食後の散歩に出かけた僕たち。

 

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