何時着くか分からない絵葉書
久しぶりに「都会」へ来たと感じさせる、バルバドス島、ブリッジタウンの街並み。
朝起きると、船は既にバルバドス島のブリッジタウン港に接岸していた。船を降りる乗客のために、何人かのバルバドスの出国審査官が乗船してくる。舞妓さんに、
「ここはどこ?」
と聞くと、
「バルバドスどす。」
という答えが帰ってくるはず。もちろん、この島に舞妓さんはいない。
朝八時から、降りる乗客のために、ナイトクラブ・ハバナで入出国の手続きが始まる。必要な書類は前夜既に乗客に配られ、僕はそれに記入していた。朝食後、その書類を持ってハバナで手続きをする。ここでやっておけば、空港では素通りできるという。もし、二千人のヴェンチューラの乗客が、バルバドスの空港の入出国審査場に押しかけたら、それこそ空港の機能が麻痺してしまうであろう。したがって、船内での処理は、乗客にも、この国にとっても、都合の良いシステムである。
審査はごくあっさりと済み、パスポートにスタンプが押され、「審査済」というカードをもらった。僕達の飛行機の出るのは午後七時。空港に向かうバスの出るのが午後四時。まだまだ時間がある。僕達は船を降りて、海岸沿いの道を歩いて、「首都」ブリッジタウンの中心へ向かう。気温は三十度前後、歩いていると結構汗が出る。途中に魚市場の傍を通る。中に入ってみる。競り台の上にはマグロのぶつ切りが並んでいた。
「うわあ、あれ買って刺身にしたら、何人分できるやろ。」
もしも、今晩も船にいるなら、僕達はマグロを買って、刺身にしていたかも知れない。
バルバドス島は、税金が安く、一種のタックス・ヘイヴンになっているらしく、ブリッジタウンにはやたら銀行、宝石店が多い。建物も洗練されており、車も多く、規模こそ小さいが、これまでの島で一番「都会」を感じさせる場所だった。
「今日は、皆に絵葉書を出すで。」
船を出るときに、僕は妻に言った。これまでは、朝船を出て、観光をして、夕方船に戻って、次の日には別の「国」にいるということの繰り返しだったので、ゆっくり絵葉書を書いている暇がなかったのだ。船を降りた後、絵葉書を十枚買い、切手を十枚買い、マリーナ(ヨットの停泊地)に面したカフェで書き始める。その日、港にはヴェンチューラと共にお馴染みのアイーダも停泊しており、カフェの客は皆その乗客のようだ。
ラム酒の入ったカクテルを注文する。三十度前後の気温に、かち割り氷の入った甘酸っぱくて冷たいカクテルが美味しい。マユミが日本の家族に、僕は自分の友達に書いた。
「あなたの『友達』って、女性ばっかりなのね。」
と妻が皮肉っぽく言う。そう言えばそう。別に「下心」があるわけではないか、何故か女性には「マメ」でいられる僕だった。
「この絵葉書、一体何日かかって日本に着くんやろ。」
太平洋の真ん中のガダルカナル島からの絵葉書は、日本に着くのに四週間かかった。
二週間、僕達の「家」だったヴェンチューラともあと数時間でお別れ。