真夜中の風鈴
白い砂浜、青い海、白い船に、青い空、それに白い雲。そんな風景ともお別れ。
さて、長かった休暇もいよいよ終りに近付き、明日は飛行機でロンドンに向かう。グレナダ島のビーチから、泳がないで、ジョーのタクシーで町に戻る。例によってナツに付き合って青空市場でココナッツの実を買って飲んだ後、少し土産を買うことになった。船乗り場の近くには、土産物屋が並んでいる。ここで、またまた「値切り名人」のナツの腕が発揮される。彼は店に入ると、店員の応対を無視して店の奥へ行き、その店の経営者と世間話を始める。経営者は何故か皆インド人。経営者と仲良くなってから、ところで、
「僕の友人(つまり妻と僕のこと)が土産を買いたがってるんだけど。」
と切り出す。すると不思議に一品につき二ドルや三ドル、あっと言う間に安くなってしまうのだ。恐るべし「インド・コネクション」。
西インド諸島ではラム酒が特産らしく、ラム酒とそれが入ったケーキを、犬の面倒を見てくれているお隣さん等に買い求める。
船に戻って荷造りを始める。荷物を今日の真夜中までに廊下に出しておけば、スチュワードが荷物を回収し、荷物は翌日空港に運ばれ、自動的に飛行機に乗せられる。次に荷物に会うのは、英国のガトウィック空港で飛行機を降りたとき。なかなか手間要らずの良いシステムなのだが、必要な物を預けてしまうと、英国に着くまで取れないので、パッキングの際には注意が必要だ。妻は何着ものドレスをまたスーツケースに入れている。
荷造りがあらかた終わったので、上部甲板に行って寝転がってビールを飲む。そして、六時半になり、レストランへと向かう。このメンバーが顔を揃えるのもこれが最後。正直、名残惜しい。船の中には、二週間のクルーズ組と三週間のクルーズ組がいるが、僕達のテーブルの人々は皆二週間組で、明日船を降りることになっている。
「一週間ほどしたら、僕のホームページを見てね。あなた方の写真も載ってると思うから。」
最後に僕はホームページのアドレスの入った名刺を皆に配った。食事の終り頃、ナツ夫婦が僕達のテーブルに顔を出した。彼等は三週間組で、あと一週間旅を続けることになる。
その日も、劇場でショーを見て、十時過ぎに部屋に戻る。革靴とか、もう必要のない物を最後にスーツケースに詰め、荷造りの終わったスーツケースを廊下に出して眠る。船は、飛行機の発つバルバドス島に向かって走り出した。
その夜、僕は、風鈴のような音色で目が覚めた。いや、目が覚めたときに、その音に気付いたと言う方が正しい。
「何だろう。」
不思議に思って、音の鳴っている方へ行ってみる。それは、マユミのドレスがかかっていた針金で出来たハンガーが触れ合う音だった。船が揺れるたびに、空のハンガーは、
「チンチロリン、チンチロリン」
と音を立てている。その音を聞きながら、僕はまた眠った。
青空市場を冷やかすナツ夫婦とマユミ。どの果物も自然そのもので、美味しそう。