セント・ルシア島

展望台からカストリーズの港とヴェンチューラを望む。

 

 水曜日、旅も終りに近付いてきた。ヴェンチューラが今日訪問するのはセント・ルシア島である。この島のシンボルは「ピトン」と呼ばれる双子の尖った山。船が島に近付くとき、そのピトンが霞の中に薄っすらと見えた。このピトンは、今回のクルーズのパンフレットの表紙を飾っている。西インド諸島全体のランドマークとも言えるこの山、是非間近に見てみたい。

 この島はコロンブスによって発見されたとされている。それが本当なら、コロンブスはイタリア人なので、「セント・ルシア」とは言わず、「サンタルチア!」と叫んだはずである。彼は、スペイン王の命を受け、西回りのアジア航路を捜しに出かける。苦難の航海の末、彼は一四二九年に現在の西インド諸島に到着する。彼はそこを「アジア」であると疑わず、そこを「西インド」諸島と呼び、原住民を「インド人=インディアン」と呼び始めたのだ。

 八時に船は首都カストリーズの港に到着する。細かい雨が降っており、山々には霧がかかっている。

「雨か、どうしよう?」

と妻と話しながら上部甲板のラウンジで朝食を取っていると、昨日乗り合いタクシーで一緒だったインド人のご夫婦、ナツとマンジュラが声を掛けてきた。それで、今日も何となく、彼等と一緒に行動することになる。ナツはインド人だが、アフリカのウガンダ出身なので、熱帯の植物や風物に対してメチャ詳しい。おまけに、典型的なインド人で値切り上手。「値切り交渉の王様」みたいな人であり、同行者としては心強い。

 朝食を終わる頃に雨が上がり、雲が切れ始める。九時にナツ夫妻と船を降りると、強烈な太陽の光と、雨の後のこれも強烈な湿気に包まれる。旅客ターミナルを出ると、沢山のタクシー運転手が声を掛けてくる。

「よし、分かった、乗ってやる、そこでモノは相談だが、マイ・フレンド・・・」

というナツの交渉で、四人でタクシーを一台借り切って、「ツンツン」双子の峰のあるスーフリエールの村と、ビーチを往復して、百三十米ドルということで交渉がまとまったらしい。言い値は百六十ドル。いやはや、僕には真似の出来ないインド人の「技」。

 ロイド君という若いお兄ちゃんの運転する、結構新しくて綺麗なヒュンダイの四駆で、マユミと僕、ナツとマンジュラの四人はカストリーズの町を出発する。セント・ルシア島は火山島で山が高く、島の殆どは鬱蒼とした熱帯雨林で覆われている。その曲がりくねった山道を車は上って行く。

 この島は昨日のアンティグア島のように農業をあきらめ観光業に徹しているというわけではなく、まだバナナが栽培、輸出されているという。車は何度もバナナのプランテーションの横を通る。バナナの木は、一度だけしか収穫できないという。それだけに、貴重なバナナを鳥や猿から守るべく、バナナの房には青い袋がかかっている。ロイド君曰く、

「あの袋、『バナナのコンドーム』って呼ぶんです。」

 

この青い袋が「バナナのコンドーム」。