ピトン
ナツに誘われてココナッツを買う。ジュースと肉、一個で二度楽しめる。
道端で売っているバナナを皆で買って食べる。小さいが甘くて美味い。次に、ナツが運転手にココナッツを売っているライトバンの横に停まるように指示する。
「俺はアフリカにいた時、毎日ココナッツを飲んでた。これを飲むと腎臓結石とか、身体に石が貯まらない。毎日飲めば健康に良いんだ。」
とナツは言う。しかし、英国のミドルセックスに住む彼、今も毎日飲んでいるのだろうか。
彼は、自分と妻のためにココナッツを二つ注文する。ココナッツ売りの親爺さんが、慣れた手つきでナタを振るってカツカツとココナッツの表面を削り、ちょうどストローが入るだけの大きさの穴を開ける。そこにストローを差し込んで、中のジュースを飲む。
「君達も試したら。」
とナツが熱心に言うので、僕達も一個買い、ふたりで代わる代わる飲んでみる。ちょっと青臭いがなかなかの味。贅沢を言うなら、ジュースが冷えていれば、もっと美味しく感じられるのではないだろうか。気温は三十度、したがってココナッツ・ジュースの温度も三十度前後。ココナッツを谷川の水で冷やして、グビグビ飲んだらきっと最高だろう。
飲んでしまって空になったココナッツは親爺さんに一度戻す。親爺さんは、ナタでそのココナッツを真っ二つに割る。その後、周囲をちょこっと削り、ちょうどスプーンになるような破片を渡してくれる。その即席スプーンで、ココナッツの内側の白い身をこそげ落として食べるのである。一個で二度楽しめるココナッツ。
道すがら、ココナッツやバナナに限らず、パパイヤやマンゴーその他の果物を机の上に並べて売っている人々に出会う。はっきり言って、パパイヤやマンゴーの木は島中のあちこちに自生しているわけで、誠に元手要らずの商売のような気がする。
途中で、運転手のロイド君の家のある村を通過する。彼は三人の子持ちだという。
「リオ・ファーディナンドもこの近くの出身だよ。」
と彼から聞いて驚く。ファーディナンドはイングランドでは「知らない人でも知っている」サッカーのナショナルチームのスター選手なのである。
港のある首都カストリーズから二つの峰の麓にあるスーフリエールの村までは三十キロほどの距離だが、道路の高低差とカーブがきついので、一時間以上かかった。目の前に、ピトンの峰が現れる。双子のような山、火山が噴火したときの溶岩ドームだと言われている。手前がプティ・ピトン、向こう側がグロ・ピトン。あまりに急なのでちょっと登れそうにないような気がする。
「ピトンって頂上まで登れるの?」
と運転手のロイド君に尋ねる。
「プティ・ピトンは頂上付近が絶壁になっているので、登るのは難しいね。でも、グロ・ピトンの方は二時間もあれば登れるよ。僕はもう百回くらい登った。」
と彼は言った。また島を訪れる機会があれば、何をさて置いても、ピトンに登ってみたい。
西インド諸島のシンボルとも言えるピトンの双子の峰。七百七十一メートルと七百四十三メートル。