熱烈な見送り
なかなか洒落た制服を着た、アンティグア島の少女達。
三時半にタクシーでビーチを発って、船の停まっているセント・ジョンズに戻る。出向の五時半まで時間があるので、少し街の中を歩いてみる。タクシーの中からも見えたのだが、子供達がみな学校の制服を着ている。様々な色の、色々なデザインの制服があるのが面白い。旧英国領の国の学校には、殆ど制服がある。学校の制服というのは、英国の文化なのだ。何と、ソロモン諸島、ガダルカナル島のジャングルの中の学校でも制服があった。
五時半、黄昏の中、ヴェンチューラが出港する。その日、セント・ジョンズ港には三隻のクルーズ船が並んでいたが、僕達の船が最初に出るようだ。隣の船は、例の悪趣味な塗装を施したドイツの「マイン・シフ・アインス」。デッキやバルコニーに乗客が出ている。その人達が、僕達の船に向かって、手やタオルを振り出した。中にはどこから持ち出したのか、懐中電灯を振っている人もいる。何かを叫んでいる人もいる。
「アウフ・ヴィーダーゼーン!」
「チュース!」
妻も僕も叫び返す。向こうの船で「バイバイ・デライラ」が流れる。この曲、「ヴェンチューラ合唱団」のレパートリーのひとつなのだ。両方の船でこの曲を合唱しながら次第に二つの船の距離が増していく。なかなか感動的な出港風景であった。
その日は、ヒンズー教の新年、「ディワリ」であった。僕はそのことを携帯に入ってくる会社のメールで知っていた。インド人の同僚が、
「ハピー・ディワリ!ハピー・ニュー・イヤー!」
のメールを送っていたからである。その日、乗り合い観光マイクロバスで、ウガンダ出身のインド人のご夫婦と一緒だった。僕も彼等に、
「ハピー・ディワリ!ハピー・ニュー・イヤー!」
と挨拶をする。船に戻った後、インド人の夫婦は、乗組員と次々握手をしながら、
「ハピー・ニュー・イヤー!」
と挨拶を交わしている。
ご主人のナツによると、乗組員の九十パーセントがインド人で、残りの十パーセントがフィリピン人であるという。確かに、結構上の階級のオフィサーから、レストランのウェーター、船室担当のボーイ(スチュワードと正式には呼ぶらしいが)に至るまで、浅黒くて、髭を蓄えた人が多い。
その日船に戻った後、船内のバーで、ビールを飲む。天気が良いので、皆上部甲板に出てしまい、暇そうなウェーターのお兄ちゃんと話す。フィリピン人だという。僕達が日本人だというと、
「私の妻はフィリピーナで、今娘を連れて日本で働いているんです。」
と彼は言った。彼は十ヶ月の契約で、この船で働いているとのこと。その間は奥さんと娘さんの顔を見ることもなく。皆結構大変な思いで、金を稼いでいるのである。
隣船の乗客の熱烈な見送りを受けながら、ヴェンチューラはアンティグア島を後にする。