ディナーのお仲間たち
船は黄昏のサウスハンプトン港を後にする。
デッキバーでは、「ウェルカムドリンク」と称して、シャンペンが振舞われていた。最上階の甲板には、デッキチェアがずらりと並んでいるが、これが使われるのは、船がかなり南に進んでからのことに違いない。
寒くなってきたので中に入る。バーでビールを飲む。飲み物は、ロンドンの街のパブで飲むのとほぼ同じ値段。海の上では税金がかからない分、安いのだろうか。ビールを飲みながら、ここは海の上に浮かぶホテルなのだと妻と話す。事実この船はホテルと殆ど同じ造りになっている。下に店やレストランがあり、その後十階くらいに渡り、客室がある。上へ行くほど値段が高く、専用のバルコニーが付いている部屋が最も高い。僕らの部屋は一番下。海に面した窓は付いているが、バルコニーはない。最上階がデッキになっていて、そこにプールやジムがある。
「英国人って、スペインやギリシアにホリデーに出かけても、日本人のようにアクセクと動き回らないで、ずっとホテルに滞在していることが多いよね。」
「それなら、そこが海岸であっても、海上であっても、基本的にはそれほど変わらないわけね。」
ビールを飲みながら、妻とふたりでそんな話をする。
夕食は、六時半からの組と、八時半からの組のふたつに分かれている。レストランに、一度に全員を引き受けるキャパシティーがないからなのだろう。僕らは「早番」、六時半からの組。今日はフォーマルの日ではないが、一応妻はワンピース、僕は背広に着替えて食堂に行く。食事は八人で大きな丸いテーブルを囲んで食べることになるらしい。航海の間、席は変わらないから、一緒の席の人たちとは、二週間ご一緒することになるわけだ。
「グッド・イブニング・エブリワン」
そう言って着席する。僕らも入れて四組のカップルで。左隣のカップルはご主人が六十代後半と思われるのに、パートナーの女性は随分若く見える。対面のカップルはふたりとも無口な人たちで、余り話をしない。右側のカップルはタクシー会社を経営しているという。これから少しずつ打ち解けていくことになるのだろうが。今はまだ初対面で、しかも余り開放的とは言えない英国人なので、テーブルの上の雰囲気は固い。
食事は、前菜、スープ、メイン、デザートをそれぞれ五種類くらいの中から選べる。それなりに美味しかった。しかし、食べている間に愕然とする。
「こんな料理を二週間に渡って食べ続けたら、どんなことになるんだろう。」
太るし、コレステロールの値は確実に上がる。
食事のとき、赤ワインのボトルを注文する。ワインを注文したのは僕達夫婦だけで、他の人たちは水を飲みながら食事をしている。偉いなと思ったのは、例えばスープをウェーターが二回に分けて運んでくる。しかし、全員にスープが行き渡るまでは、誰もスプーンに触れないのだ。この辺り、結構礼儀正しい英国人らしいと思った。
左から、ジョン、マユミ、ジェマ、キース、僕、ジャネット、ジェニファー、マルコム、二週間ディナーを共にする「お仲間」だ。