いよいよ乗船
船の中とは思えない豪華なアトリウム。
旅客ターミナルの前でタクシーを降りると、荷物係りのお兄ちゃんが手押し車を持ってやって来た。ここで大きな荷物を渡しておくと、後は船室まで運んでくれるという。僕が、荷物の中からパソコンを取り出しているのを見て、お兄ちゃんは言った。
「休暇にラップトップですか?余り感心しませんね。」
もちろん冗談だが。
「いいのいいの、日本人は『仕事の虫』だから。」
てなことを答えておく。
今回休暇にパソコンを持ってくるかどうか迷った。しかし、往路は八日間も大西洋の上にいるのだ。せめてパソコンでもないとやっていられない。そう思い、荷物に入れたのだ。
今回の予定ではサウスハンプトンを出航して三日間走った後、ポルトガル領のマデイラ島に着き、そこで一日を過ごした後、五日間また海の上で過ごした後、カリブ海に着く。そこで四日間西インド諸島の島を巡り、バルバドス島から飛行機で英国に戻るという日程だ。
「八日間も海の上で何をするの?」
というのが最大の問題。しかし、僕は一生に一度でいいから、船で大西洋を渡ってみたかった。それで、妻がクルーズに申し込みたいと言ったときも、片道を船にしてもらったのだ。
実はこの旅、申し込んだのはもう一年半以上前になる。最初は昨年の十二月に出発する予定で金も払った。しかし、京都の父の具合が悪くなり、昨年は有給休暇を全て日本へ帰ることに使わざるを得なかった。父が今年に入って亡くなり、時間に余裕のできた妻と僕は、一年間延ばしておいた船旅に出発することにしたのである。
今年は、新しい車も買ったし、クルーズにも出かけるし、カワイ一家は何と「羽振り」がいいの、と思われるかも知れないが、車はまだまだ乗るつもりのものが事故で大破して仕方なく買ったものだし、クルーズはもう随分前に金を払っていたのである。
タクシーを降りてターミナルビルの中に入ると、そこは空港の待合室のような場所だった。整理券をもらって待つ。とにかく、三千人という人がチェックインするのだから、なかなか大変な作業だ。船を間近に見ると、いよいよでかい。十数階建てのビルの横にいるよう。船腹から、僕らの預けた荷物が、コンベアでどんどん船の中に吸い込まれていく。
一時間ほど待った後、チェックインを済ませ、建物から直接船にかかったブリッジを渡って船に乗り込む。船の出発と言うと、タラップを上がって乗り込み、「蛍の光」が流れ、七色のテープが飛び交うというイメージだったが、ごくあっさりした乗船だ。
船に乗り込み、船室に向かう。自分の部屋に辿り着くまで、真っ直ぐな廊下を延々百メートルくらい歩かねばならない。エレベーターの表示を見ると十六階まである。船室に入る。僕らが予約したのは、かなり下のクラスの部屋だが、ダブルベッドがあり、普通のホテルの部屋と変わらないくらいの広さ。僕はもっと小さな、潜水艦のキャビンのようなものを想像していたのに。
僕達が二週間を過ごす船室。普通のホテルの部屋と変わらない。