海に浮かぶ巨大なマンション
ウォータールー駅から電車でサウスハンプトンに向かう。
「明日から僕は二週間休暇を取ります。それで、これからその期間の段取りについて皆さんと話をします。」
木曜日、僕は打ち合わせの席でチームのメンバーに言った。
「モト、どこかへ行くの?」
と皆が聞いてくる。
「大西洋を船で渡って、カリブ海までね。」
「それって、つまり『クルーズ』なの?」
ディーパックが言った。
「まあ、そう言うことですね。」
と僕は答える。そこでマイケルが言った。
「モトの船の船長が、イタリア人でないことを祈ってるよ。」
そう言えば、今年一月、客船を「スポーツカーのように」運転(?)するイタリア人の船長が、「コスタ・コンコルディア」という豪華客船を地中海で座礁、転覆させて、乗客が何人か亡くなったことがあった。しかも、その船長が先に逃げちゃったというのだから呆れる。
出発の前夜、友人の何人かにメールを打ち、
「氷山に当たらないで無事カリブ海に着いたら、絵葉書でも出すからね。」
と書く。どうも僕には、「大西洋を渡る」>「タイタニック号」>「氷山に衝突」>「沈没」というイメージが払拭できない。
金曜日の午前十一時、妻と家を出て、船の出る港、サウスハンプトンに向かう。サウスハンプトン行きの電車はウォータールー駅から出ているので、そこまでは地下鉄で行く。途中僕の思い違いから、地下鉄を余分に乗り換えることになった。重い荷物を引っ張りながら、余分に歩かされた妻がブツブツ言っている。ロンドンに二十年以上住んでいて、「地下鉄路線図」は完全に頭に入っているつもりなのだが、こんな時に限り間違いを犯してしまう。
十二時半頃に、ウォータールー駅を出て、一時間半足らずで電車はサウスハンプトンに着いた。そこからタクシーで波止場へ向かう。旧市街を出ると、すぐに僕達の乗る船、「ヴェンチューラ」見えた。遠くから見ると、白い巨大なマンションのよう。
ヴェンチューラについては、前日にインターネットで少し調べていた。二〇〇八年に竣工した客船で、十一万トン、長さは二百八十八メートルであるという。最高三千五百人の客を運べ、乗組員だけで千二百人を要するという巨大な船。ちなみに、映画にもなった「タイタニック号」は四万五千トン、千五百人の乗客を運んだというから、その二倍強の大きさである。タイタニックが出航したのも、ここ、サウスハンプトン港。ちょうど百年前の一九一二年のことだ。しかし、世の中には、このヴェンチューラの二倍以上の大きさの客船があるという。「オアシス・オブ・ザ・シーズ」という二〇〇九年から就航している船は、実に二十二万五千トン。タイタニックの五倍以上の大きさだという。
旅客ターミナルから見る、巨大な「ヴェンチューラ」。タイタニック号の二倍以上の大きさ。