ブダとペストでブダペスト
ブダの王宮の丘の上で自画撮りをするお姉さんたち。
「僕の名前はブダ、僕の名前はペスト、ふたり合わせてブダペスト〜、君と僕とでブダペスト〜」
「ヤン坊、マー坊の天気予報」式に言うとこうなる。ブダペストは南北に流れるドナウ河を挟んで向かい合う、左側のブダと右側のペストが一緒になって出来た町である。
「ヤン坊、マー坊の天気予報」で思い出したが、こんな替え歌があった。
「僕の学校はホウセイ、僕の学校はケイオウ、ふたり合わせてホウケイだ、君と僕とでホウケイだ。大きなものから小さなものまで・・・」
ノルウェーから戻った翌朝、英国はハートフォードシャーの自宅で一泊した僕は、ハンガリーに向けて旅立った。ノルウェーは休暇であったが、ハンガリーはビジネスである。火曜日の朝五時半に家を出て、先ず車でロンドンの北方にあるスタンステッド空港まで車で行き、そこからライアンエアという格安航空会社の飛行機でブダペストに向かう。仕事の進捗にもよるが、木曜日か金曜日までハンガリーに滞在して、英国に戻るという予定であった。
ハンガリー滞在中、ブダペストにある協力会社とのミーティング、タタバーニャという町にある顧客訪問、ブダペストに戻って僕の会社のハンガリー支社のメンバーとのミーティングが予定されていた。ブダペストは「ドナウの真珠」と呼ばれている美しい町である。略して「ブダに真珠」とも言う。仕事の他に、少し時間が取れて、ドナウ河の畔を散歩できればいいのにと思う。僕は水辺を散歩するのが好き。
「ノルウェーでフィヨルドの岸を散歩した翌日、『美しき青きドナウ』の岸を散歩するなんて、何てロマンチックで贅沢なんだろう。」
期待しながら空港へ向かって車を運転する。
ブダペストを訪れるのは二度目。十年ほど前、やはり出張で、一泊二日で訪れた。この時は、ほとんど空港とホテルと仕事場にいただけ、ブダペストの街は、遅い夕食の際に夜景をチラリと見ただけであった。しかし、出張とはそんなもの、何時も時間に追われた滞在になり、自由時間なんてほとんどないのが普通である。
スタンステッド空港で、ライアンエアのカウンターを訪れ、搭乗券を印刷してくれてと頼む。手数料に四十五ポンド(約八千円)取られた。家で印刷してくれば只だという。しかし、僕は休暇から帰って、オフィスに寄らないで来たので、会社のEメールで届いた搭乗券は印刷できなかったのだ。そもそも、往復で二万円もしない切符なのに。
「顧客に対して笑顔を見せてはいけない。」
ライアンエアの職員にはそんな規則があるのだと思う。愛想良くしてお客になつかれたら仕事が増えるので、お客とは常に距離を保つというのが社是らしい。切符そのものはとても安いのだが、チェックインの荷物、大きめの手荷物、機内での飲食物、全て有料だ。一度など、機内のトイレの使用料を取ろうとして、監督当局から指導を受けたという。とにかく、初めてライアンエアを利用する客は、超不親切な説明の幾つかを見落とし、余分な金を払わされる破目になるのである。
僕は八時半発のライアンエア機に乗り込む。荷物を預けると金を取られるので、乗客は皆制限ギリギリの手荷物を持って乗ろうとする。機内にそんなスペースはないので、結局は航空会社が只で預かることになる。ちょっと、「ザマ見ろ」という気分である。
ブダの王宮の丘から、小雨に煙るドナウ河、鎖橋、バジリカを望む。