小便小僧とビリケンさん

 

少し不気味な服を着ている小便小僧。彼は世界中から贈られた、何百着もの衣装を持っている。

 

 グランプラス広場から五分ほど歩いた街角で、有名な「マネケン・ピス、小便小僧」に出会う。一六一九年に作られたこの噴水、それ以来、男の子がおしっこをし続けている。戦争中、幼い国王が敵の前でおしっこをして味方を勝利に導いたとか、幼い男の子がオシッコで時限爆弾の導火線の火を消して、味方を救ったとか、その起源には諸説がある。とにかく、この男の子は、週七日、一日二十四時間、放尿を続けている。その日、小便小僧は服を着ていた。白と黒のとんがり帽子で、何か「KKK団」のようだ。何の衣装なのだろう。

辺りの店のショーウィンドーの中に、小便小僧のレプリカが沢山あった。またまた、デ・ジャ・ヴに襲われた僕は考え込む。

「こんな風景をどこかで見たぞ。ああ、そうだ!」

それは、大阪の通天閣の足元にある「新世界」であった。通天閣にはおかしな子供の姿をした神様「ビリケンさん」が飾られているが、辺りの飲食店にも、やたらこの「ビリケンさん」が飾られていた。

「小便小僧はベルギーのビリケンさんである。」

僕はそう宣言した。

商店街にはレース編みを売る店、ビールを売る店、チョコレートを売る店が多い。レースはテーブル全体を覆うような大きなものから、コップの下に敷くような小さなものまである。どれも極めて精緻で繊細である。ベルギーのチョコレートとしては「ゴディバ」が有名だが、他にも沢山のチョコレートショップがあった。

フランス人はワインを飲むが、ベルギー人はビールを飲むらしい。ヨーロッパでビールと言えば、「ミュンヘン、サッポロ、ミルウォーキー」、「オクトーバーフェスト」と、ドイツが有名だが、ベルギーというのは隠れたビール王国なのだ。英国にいるとき、僕は家ではもっぱら「ステラ・アルトワ」というビールを飲んでいるが、これも元々はベルギー産。ベルギーのビールはアルコール度が高く、濃厚な味がして、結構美味しい。

天気が良く暖かい。グランドプラスのカフェでビールを飲んだら急に眠くなったので、三時ごろ一度ホテルに戻り昼寝をすることにする。

五時前にまた地下鉄に二駅乗り、オールドタウンを訪れる。大通りのアンスパックラーンは歩行者天国になっており、卓球台、大きなチェスセット、子供の遊び場、バドミントンのコートなどが通りの真ん中に設えられてある。幼稚園児くらいの大きさのチェスの駒でゲームをしている人たちを、大勢の人が取り囲んで観戦している。午後五時と言っても、夏のヨーロッパのこと、夜十時までは明るく、まだまだ行動できる。

今回はグランドプラスから少し坂を登ってサン・ミッシェル大聖堂へ行ってみる。白い、立派な建物である。丘の上に建つ雰囲気が、パリのモンパルナスに似ている。しかし、こんな建物をクレーンもなしに建ててしまうとは、どれだけの人が動員され、どれだけの時間がかかったのだろう。教会はお金持ちなのだ。

 

大聖堂の前の石段は、恰好の休憩場所だ。