海鮮船盛
由緒正しいギャラリー・サンチュベールのアーケード。入っている店も由緒ただしいものばかり。
グランドプラスから、ヨーロッパ最古のアーケード街という「ギャラリー・サンチュベール」を抜ける。アーチ型のガラス屋根、統一のとれた両側の石造りの店、大理石の床、一八四七年につくられたという、古式ゆかしいアーケード街だ。そのアーケードから脇道に入ると、レストラン街があった。
「ここだ!」
僕は声に出して叫んだ。もう十五年以上前、僕は出張で何度かブリュッセルに来たことがある。そのとき、前の会社のブリュッセル事務所のTさんが、シーフードレストラン街に連れて行ってくらた。氷を敷き詰めた上に、てんこ盛りに乗せられた、生ガキ、ロブスター、海老、ムール貝など、感激の涙を流しながら食べた覚えがある。とにかく、その出張のことは殆ど何も覚えていないが、「海鮮船盛」を食べたのだけは覚えている。
今回もそれを是非食べたかったのだが、前回どこで食べたのか思い出せない。偶然にも今その場所を通りかかったのだった。僕、耄碌爺の時計はもう六時。晩御飯を食べても可笑しくない時間だ。昼食は何も食べていないし。僕はそこで「海鮮船盛」を食べることにした。客引きのおっさんたちが、
「お兄さん食べてきないよ、ビールをサービスするよ。」
などと声を掛けてくる。合理化が進みすぎて、駅など人がいないのに、この辺りは随分「労働集約型」の場所である。しかし、おっさんたちの顔つき、英語のアクセントからすると、皆東欧の人たちのようである。
外のテーブルに座り、四十五ユーロの「シーフードの盛り合わせ」を注文し、ビールを飲みながら待つ。なかなか出てこない。後から横のテーブルの座った人たちの料理の方が先に出て来た。ボチボチ文句を言おうかなと思っていた時、ひとりのウェーターが隣の席に慌ててやってきて、何やらフランス語で説明している。
「この料理はお隣の方のものでした。お客さんの注文した料理は別のものです。」
と言っているようだ。ウェーターは隣の客が少し手を付けた海鮮盛合せを下げ、三分後に僕のテーブルに持って来た。おそらく、隣の客が手を付けたものだけを足して持って来たのだと思う。何だか「おさがり」のような気がするが、
「ま、いいか。」
生ガキは美味しかった。出張中お腹を壊すと大変なので、食べ物には注意しなければいけないのだが、生ガキとか、タルタルステーキステーキとかついつい「ナマモノ」に手が出てしまう。
一度ホテルに戻り、九時半頃にまた外る。日が沈み、薄暗くなりはじめている。シェラトンホテルのあるロジェール地区はビジネス街、鏡のようなファサードを持った四角い高層ビルが立ち並んでいる。オールドタウンはそれなりに歴史的な景観が保存されているが、それ以外の場所は、超近代的で、ちょっと非人間的な、冷たい印象を与える街並みである。
やはり、生ガキは最高の味覚だと思う。最初に食べた人は勇気が要っただろうが。