ストーリー
ボリスの戴冠式のシーン。視覚的な美しさに酔いしれてしまう。
英国のクラシック専門ラジオ局で、オペラの番組がある。その中で「ストーリー一分間紹介」というコーナーがある。複雑なオペラのストーリーを、一分間で要約するというチャレンジングな企画。聞いていて忙しいが、面白い。今回は僕もそれに挑戦してみよう。
まず、「ボリス・ゴドゥノフ」のストーリーだが、原作はアレクサンドル・プーシキンの戯曲である。プログラムの中にあるロジャー・クラーク(Roger Clarke)が書いた「プーシキンのボリス・ゴドゥノフ」(Pushkin’s Boris Godunov)よると、プーシキンは、シェークスピア歴史劇の「重厚な」作品群を読んで衝撃を受けた。それまでフランス風の「軽薄な」戯曲とは全く別物だったからである。彼は、自分もロシアの歴史を基にした作品を書いてみたいと思った。そうして、書かれたのがこの作品である。さあ、以下を一分で読むことができるかな。
「モスクワの民衆は、ボリス・ゴドゥノフがツァーリの地位に就くことを望んでいた。最初はそれを拒んでいたボリスだが、結局はそれを承諾し、戴冠式に臨む。ボリスの治世の最初は問題なく回るが、数年後、ロシアを飢饉が襲い、不幸な出来事が続く。人々は、ボリスがイワン雷帝の幼い息子、ドミトリーを殺したことの『たたり』だと噂し始める。
その頃、モスクワの僧院で、修道僧のピーメンがロシアの歴史を綴った年代記を書いていた。それを、若い修道僧のグリゴリーが読む。そして、ボリスが、自分が帝位に就くために、イワン雷帝の息子ドミトリーの暗殺を指示したことを知る。グリゴリーは自分が殺されたドミトリーと同じ歳で、姿も似ていることに気付く。元々兵士になりたかった彼は、僧院を抜け出す。グリゴリーはリトアニアとの国境までやって来る。彼はふたりの僧の道案内として宿屋に入る。しかし、彼の逃亡と画策は当局に漏れており、国境警備隊が厳重な警戒態勢を敷いていた。国境警備隊が宿屋を訪れ、旅行者を尋問するが、警備隊長が字を読めないのをいいことに、グリゴリーは一緒にいた僧に罪をなすりつけて逃亡する。
クレムリンでボリスは、自分の不人気と、過去に犯した罪の罪悪感にも悩んでいた。彼の娘クセニアはデンマークの王子と結婚することになっていたが、フィアンセは急死。ボリスの望みは息子のフョードルだけであった。そのとき、腹心の部下シュイスキーが入ってきて、ドミトリーと名乗る男がリトアニアで兵を挙げ、モスクワに向かって進軍中だと報告する。ドミトリーの殺害を命じ、それを実行したのはシュイスキーだった。ボリスは激怒して、シュイスキーの無能をなじる。
モスクワの民衆は、飢餓の中にあった。彼らは、広場に集まり、ミサを終えて出てきたボリスの一行に、パンをくれるように懇願する。ひとりの乞食が、少年たちに金を取られたことを訴える。乞食は、『少年たちを殺してくれ、あんたが、ドミトリーを殺したように』とタブーを口に出す。ボリスの側近は乞食を捕えようとするが、ボリスは抑える。
貴族たちは、偽のドミトリー対策について話している。そこに、錯乱したボリスが入ってくる。僧のピーメンが『墓から蘇った者』の話をするとボリスはさらに錯乱し、息子を抱きしめながら死ぬ。」
グリゴリーは、ドミトリーになりすまし、リトアニアで挙兵をしようとするが、国境で疑われてしまう。