トナカイの毛皮

ノルウェーの民族舞踊を披露する若者たち。

 

ベルゲンの市内に戻った僕たちは、ケーブルカーで、町の背後にあるフロイエン山に登る。朝ケーブルカーの乗り場の横を通ったが、何百人もの列が出来ていた。おそらく大きなクルーズ船が港に着いて、乗客が一時に山に登ろうとしていたのだと思う。午後、僕たちがまた乗り場に来た時は、行列は数十人になっていた。ケーブルカーは地下の駅から発車し、標高三百メートル余の山頂には、十分足らずで到着する。当然のことだが、二台のケーブルカーが真ん中ですれ違いながら往復している。

「通勤、通学のお客様は優先的にご乗車いただけます。」

と書いた札が掲げられている。ケーブルを利用して、通勤、通学をしている人がいるらしい。今朝のように混んでいると、遅刻するものね。

山頂の展望台から見下ろすベルゲンの街と湾の景色は素晴らしい。雛壇のようになっていて、そこで大勢の人が腰掛けて、眺望を楽しんでいる。音楽が聞こえてくるのでそちらの方へ行ってみると、民族衣装を着た若者がダンスをしていた。女性は黒くて長いスカートを履いていて、踊りと共に裾がひるがえる。ダンサーの額に汗が光っている。

「なかなか楽しそうだね。」

と僕が言うと、

「余り合ってないわね。」

とバレー教師の資格を持つ娘が言う。専門家の目は厳しいのだ。

山の上には何本かのハイキングコースがある。十五分ほど歩いて、小さな湖の畔に着く。朝から道に迷って一時間半も歩いてしまった僕はそこで一休み。妻と娘は更に奥へ分け入って行く。

下りのケーブルカーを待つ間、土産物屋に入る。トナカイの毛皮を売っている。大人がひとりその上で寝られるくらいの大きさがあり、薄茶色の毛は思ったより柔らかい。この上でコロコロしたら気持ちが良いだろうなと思う。値段も一万円をちょっと出るくらいで、それほど高くない。

「欲しいなあ。」

「パパ、買うの?」

と娘に聞かれるが、結局やめておく。今回は格安航空会社なので、チェックイン荷物の制限があって、おそらく重量がオーバーするだろう。しかし、トナカイの毛皮は、次回ノルウェーに来たときには、是非とも買って帰りたいアイテムである。

 五時半ごろに街に下りて、カフェやパブでビールを飲むと高いので、スーパーマーケットで買ってきたビールを、港のベンチに座って飲む。ヨーロッパでは、公共の場所での飲酒が禁じられている国が多い。日本のように、公園で花見をして酒を飲むなんてもってのほか。ノルウェーはどうか知らないが、まあ、こんなに沢山人がいれば見つからないだろう。天気の良い土曜日の夕方、観光客でカフェやパブはどこも満員の盛況である。

 魚市場の前のタイ料理(鯛料理ではない)で夕食を済ませ、ホテルに戻った妻と僕は、ホテルのバー行った。ここは、古式ゆかしいホテルの中でも、特に拡張の高い部屋で「世界のウィスキー・バー・ベスト二百」にも入ったという。二百種類くらいのウィスキーが置いてある。マイルドでそこそこの値段のスコッチを頼んで飲む。コーヒーと茶は只で、妻は紅茶を飲んでいる。

 

ベルゲンの街が一望できるフロイエン山展望台にて。

 

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