ストリクトリー・カム・ダンシング
今年ダンスに挑戦するメンバー。閣僚経験のある政治家から、オリンピック走り幅跳びの金メダリストまでいる。
日本のテレビはバラエティー番組が多いが、英国のテレビでは「コンテスト番組」が全盛だ。ダンス、歌、料理、何でも競わせて、最後に残った者が優勝というパターンの番組が、数か月単位企画され、放送される。この「ストリクトリー・カム・ダンシング」なる番組、どのようなものかと言うと、まずスポーツ選手、政治家、歌手、俳優、ニュースプレゼンターなど、いわゆる「セレブ」、「有名人」が出場者に選ばれる。超忙しくなくて、少し時間に余裕のある人たちが選ばれるのだと思う。彼らはプロのダンサーとコンビを組まされ、一週間に一度の番組で、ダンスを披露する。それに対して読者が電話投票をして、毎回一組が落とされていく。そして、最後に残った一組が優勝するという、十月に始まり、クリスマスの前に終わる、丸三ヶ月かけての大規模なコンテスト番組なのだ。「ダンス」、「セレブ」僕には縁も所縁もない世界。しかし、その日は他に見られる英語番組がない、その番組が僕の住む町で収録されている、と言うふたつの理由で、最後まで見てしまった。
正直、過剰演出。盛り上げよう、盛り上げようとしているのが見え透いていて、見ている方がかえって白けてしまう。などと文句を並べながら、不思議なもので、一度見ると、何となくその後の展開に興味が湧いてしまう。後日談だが、英国に戻ってからも、僕は土曜日にその番組を見るようになっていた。
「どうしたの、急にダンス番組なんて見だして。」
と妻や娘が不思議な顔をしている。その夜、番組が終わったのが九時頃。よく歩いて、ワインの酔いが気持ちよく回った僕は、九時半ごろには眠ってしまった。
日曜日、僕はリエージュに行く予定でいた。しかし、夜中に目が覚めると、急に日本語の旅行ガイドに載っていた、ナミュールとディナンへ行ってみたくなった。夜中に起き出して、ラップトップのスイッチを入れ、インターネットで調べてみる。ふたつの町は同じ方角で、互いに、列車で三十分くらいの距離しか離れていない。ふたつの町を一日で回ることができそうである。列車の時間を調べると、ミディ駅発七時三十三分の列車に乗れば、ナミュールに九時にはもう着いている。僕はそれだけ調べると、パソコンと電灯を消して、もう一度眠った。ナミュールについて調べようと思って、グーグルのサイトで「NAMUR」くらいまで入力すると、韓国料理の「ナムル」の作り方がずらっと出てきて、笑ってしまった。
翌朝、日曜日も六時に起きて、補強運動とシャワー。朝食を食べて、サンドイッチを作り、予定通り七時三十三分のルクセンブルク行きのインターシティに乗る。窓の外はまだ完全に夜である。八時半ごろ、徐々に夜が明けてくる。列車は深い霧の中を走っている。
「霧の朝は、その後天気が良いんだよな。」
僕はこれまでの経験からそれを確信していた。
ナミュールの駅から外に出て驚いた。
「だ、誰もいない。猫の子一匹いない。」
日曜日の朝九時前なんだもの、誰もまだ外に出ないよね。
ナミュール。マース川とその向こう岸に聳える城塞。ここも色づいた木々が美しい。