切手の糊の味
百種類以上の品揃えがあると思われるチーズ屋さん。
ホテルに戻って朝食を取った後、私は、昨夜家族に書いた絵葉書を出しに行くことにしました。ホテルのフロントで郵便局の場所を聞いて、そこへ着いたときは九時五分。九時から開いた郵便局の、私は十四人目の客でした。どうして分かるかというと、私の取った番号札が十四番だったからです。私の順番になり、三枚の絵葉書を出し、
「一枚は日本で、二枚は英国。」
と窓口の若い男性に伝えます。彼は、引き出しから三枚の切手を取り出し、それを一枚ずつ丁寧に舌で舐めて、絵葉書に貼ってくれました。普通、郵便局の窓口には、水で湿したスポンジが置いてあり、切手はそれで濡らして貼ってくれるでしょう。そもそも、郵便局の職員が、全部切手を舐めていたら、数時間後には、口の中が糊でネチョネチョになると思いませんか。
「美味しい?」
と思わず私は窓口のお兄さんに尋ねました。
「こんな美味い朝飯食べたの初めて。」
とお兄さんが答えたので、局中が大爆笑。
十時から「ルーベンスハウス」が開くというので、私はホテルを出て、昨日通った商店街に入り、ルーベンスハウスと書いてある方向に折れました。広い石畳の通りの真ん中にガラス張りの建物があって、そこで切符を買ったり、荷物を預けたりするようです。その通りには、土曜日ということでマーケットが出ていました。私は時間まで、マーケットを見て歩きました。野菜、果物、花、チーズ、パン、肉とソーセージ、衣料品などの屋台が出ており、ヨーロッパではお馴染みの光景です。オランダに近いこともあって、チーズ屋さんには色々なチーズが並んでいて、なかなか見応えがあります。
十時ちょうどにルーベンスハウスの切符売り場に行くと、そこにいたのは私ともうひとりの男性のふたりだけでした。ルーベンスハウスは「アントワープ随一の観光スポット」と聞いていたので、混むといけないので早めに行ったのですが、そんな心配は無用のようです。
「十ユーロで、『コンビ』の切符をお買い求めになると、ルーベンスハウスの他に、別の美術館や大聖堂にも入れますよ。」
と窓口の男性が言うので、
「じゃ、それ。」
と言って買います。五箇所以上行けて、たった十ユーロというのは安いと思いませんか。私は、そのときまだ、周りに建っている家の、どれが「ルーベンスハウス」か知らなかったのです。
「こっちですよ。」
と言われて、褐色の石造りの家の門を潜って中に入りました。そこはすぐに中庭になっていました。
ルーベンスハウスの入り口。彼は二十五年間ここに住んでいたとのことです。