需要と供給
由緒ある中華街の門から、観覧車と中央駅を望む。
私は何時も出張に行くと、インド料理店でカレーを食べる変な習慣があります。フランスでもインド料理。
「せっかくフランスへ行ったんだから、美味しいフランス料理を食べたらいいのに。」
と妻も娘たちも言うのですが、何故かカレー。イチロー選手じゃないですが、よっぽどカレーが好きなんでしょうね。その夜もカレー、「ラム・マドラス」を食べました。暖かい夕方で、外で食事ができます。カレーは結構スパーシーで、翌朝お尻の穴がもう一度辛くなるんじゃないかと思うくらい。
「でもこのくらいのカレーが美味しいんだよな。」
旅先でのもうひとつの変な習慣は、夜ユーチューブで「吉本新喜劇」を見ながら寝ること。その日も、ベッドの中で、きっちり辻本茂雄の出る難波花月の舞台を見て、十一時には眠りました。
翌朝、七時ごろから街を散歩してみることにしました。駅前の広場に大きな観覧車が立てられていて、その大きな白い円に朝日が当たり、青空に映えています。昨日は結構雲の多い天気でしたが、今日は良い天気になりそうです。
街の中を、自分の足で歩くというのは、車や、他の乗り物の中からは見えない、新しい発見があって楽しいものです。その日の「最初の発見」はチャイナタウンでした。中央駅のすぐ横に中華街がありました。三百メートルくらいの長さの道路の両側に、中華料理店、中国食材のスーパーなどがずらりと並んでいます。そして、その入り口には中国風の門が立ち、もう片方の入り口には「獅子」が鎮座するという、「由緒正しい中華街」という雰囲気でした。しかし、人口四十万ほどの都市に、これだけのレストランとスーパーマーケットを維持していくだけの、中華料理の需要があることが意外でした。街を歩いていても、それほど多くのアジア系の人には出会いませんでしたから。しかし、アントワープは、かつては貿易で栄えた都市です。駅は言うに及ばず、教会や町並みも、有り余る富をバックに、金に糸目をつけずに作ったという感じがします。そして、貿易の要所には必ず中国人が住んでいます。
それともうひとつ驚いたのは、宝石店が多いことでした。ベルギー、特にアントワープはダイヤモンド取引の中心地ということは、観光案内書で知っていました。また、「レース編み」と「ダイヤモンド」は、ベルギーの土産の双璧だとも聞いていました。しかし、この宝石店の数は、想像を遥かに上回るものです。駅前の裏通りは、両側がギッシリ宝石店、おそらく、その通りだけで、五十軒以上の宝石店があると思います。まだ朝早いので、シャッターを下ろしている店もありますが、ショーウィンドウがある店もあって、そこではダイヤが朝日にキラキラと輝いていました。
「誰がこんな高いものを買うねんやろ。アラブの富豪やろか。」
どれも、妻の土産に気軽に買っていけるような値段ではありません。ここでも、これだけ多くの店を維持するだけの需要のあることに、私は驚きました。
ダイヤモンドの店がずらり並んでいます。買う人がそれだけいるのが不思議です。