飾り窓の女性
ここが春を売るお姉さんの職場です。通りの両側は皆この手のお店です。
ときどき、写真を撮ってもらった人と、お話しすることがあります。その日も、ご夫婦のご主人の方に写真を撮ってもらった後、少し話しました。地元にお住まいの方とか。
ご主人:「どちらからおいでになったんですか。」
私:「日本です。」
ご主人:「このイベントを見るために、わざわざおいでになったんですか。」
そんな人も、沢山おられるようですね。
私:「いえ、たまたま来たら、ちょうどこの催しがあったんです。一年のうち、この週末に来たのは、本当にラッキーでした。」
ご主人:「このレース、毎年じゃなくて、三年か四年に一度なんですよ。」
ええ、そうなの、その三年か四年に一度のイベントに、偶然ちょうど来合わせたってわけ。何という幸運なんでしょう。
船を見ながら、写真を撮りながら歩いたので、一番端の船まで行くのに、二時間くらいかかってしまいました。メキシコとかベネゼイラとか、ラテン系の国の船はどこもにぎやか。大きな旗をはためかせ、明るい民族音楽をガンガンかけています。それに比べて、ロシアやノルウェーの船は、何だか真面目な、暗い雰囲気があります。乗船しようかと考えたのですが、結構長い列なのでやめておきました。
そのまま同じ経路を帰ったら、また二時間かかってしまいそうなので、海岸を離れて、街の中を歩きはじめました。しばらく行くと、普通の商店街っぽい通りに入りました。何を売っているんだろうと思ってショーウィンドーの中を覗くと、化粧の濃い、大胆なビキニの女性が、高い椅子に座っています。売っているものは「春」、彼女自身だったのです。つまり、「レッドライト・ディスクリクト」、「飾り窓」の通りに迷い込んでしまったわけです。しかしまだ午後五時。お日様が照っています。そんな時間に、商売ができるのでしょうか。
「お兄ちゃん、遊んでいきなよ。」
と声を掛けていただいたのですが、今回は遠慮しておくことにしました。
さすがに三時間以上歩いて、足も疲れましたし、喉も渇きました。大聖堂の横のマーケット広場に面したカフェに入って、ビールを飲みました。ベルギーってビールが有名なんですよね。小さな国ですが、千種類以上のビールが作られているそうです。個人的にはホップの効いたベルギーのビールは大好きで、英国でもいつもベルギーのビールを飲んでいます。暖かい気持ちの良い夕方で、ビールを飲むには最高のお膳立てです。ただ、贅沢を言えば、独りで話し相手のないのは、少し寂しい気がしました。
七時ごろ、写真を撮ろうと思って中央駅に入って、改めてその壮大さと豪華さに驚きました。何より驚いたのが、駅のカフェです。単なる駅のカフェですよ。それが、ベルサイユ宮殿の「鏡の間」みたいなんです。私は後にも先にもあれほど豪勢な「駅カフェ」を見たことがありません。私はそこで二杯目のビールを飲みました。
ここが駅のカフェだと言われても、ちょっと信じ難いのではないでしょうか。