行きたかった所

 

念願が叶ってやった訪れたスーパー・ツリー。

 

 最終日、妻と僕は二人だけで行動することにした。これまで、ずっとスミレが一緒だったし、一度くらいは夫婦水入らずで、ということに。

「さて、どこに行こう。」

という話になった。僕にはひとつ行きたいところがあった。飛行機に乗ってシンガポールに向かうと、着陸の直前に、シンガポールを紹介する映像が流される、そこに必ず登場するのが「マリナ・ベイ・サンズ」と「マーライオン」と、人工の木である「スーパー・ツリー」。この「スーパー・ツリー」、まだ近くで見たことがなかったのだ。これって、「京都に住んでるのに、まだ金閣寺に行ったことがない」みたいなものじゃ。それで、最終日は、そこと、近くの巨大な温室植物園「クラウド・フォーレスト」を見に行くことにした。

 朝食後、ホテルを出て、一度ワタルのコンドに寄った後、オーチャード駅に向かう。英国や日本では行動するとき、「グーグルマップ」に頼り切っている。しかし、シンガポールで僕の携帯は、屋外では「モーバイルデータ」、つまりインターネットにつながらない。これはとっても不便。迷いながらオーチャード駅に着き、そこから、最寄り駅である「ガーデンズ・バイ・ベイ」駅に降り立つ。駅を出たところで、中国人のおじさんに、話しかけられる。

「いい景色ですねえ。あれ、有名な建物なんでしょ。」

メッチャ訛りの強い中国語。出身を尋ねると、海南島から来た観光客とのこと。

「あのおっちゃん、日本人、韓国人もたくさんいる中で、よう、しょっぱなから中国語で話しかけてくるなあ。ええ度胸したはる。」

妻と二人で顔を見合わせる。小雨が降っているが、涼しくてちょうどいい。十五分ほど歩いて、この前エンゾーが喜んで遊んでいた「水の出る公園」の横を通る。天気が悪いせいか、今日は閉まっていて、水は出ていない。

「クラウド・フォーレスト」は、巨大な温室の中に作られた、熱帯雨林の擬似空間であった。七階か八階建ての建物に匹敵する温室で、一番上から下まで流れる滝がある。観客は、上から下まで、回廊を辿りながら、温室内に作られた「人工的な自然」を楽しむのである。中に咲いている「ラン」の花が美しく、熱帯の雰囲気を醸し出している。内部は結構湿度が高く、おそらく、熱帯の植物にとって、理想的な温度と湿度になっているのだと思う。

 「クラウド・フォーレスト」を出るころには、雨も上がり、日差しが戻ってきていた。僕と妻は、ベンチに腰掛けて、冷たい飲み物を飲んでいた。そのとき、後ろの茂みの中から、何かが現れる。一メートル以上もある大きなトカゲ。周りの人々もそれに気づき、携帯で写真を撮っている。オオトカゲは、五分ほど道を散歩した後、また茂みの中に消えた。

「シンガポールは人工的な街と言っても、やっぱり、熱帯なんやなあ。」

 それから、妻と僕は「スーパー・ツリー」を見に行った。人工的な木だが、その側面に植えられているのは本当の植物だという。これで、やっと念願が叶った。

 

突然現れ、道路を散歩するオオトカゲ。

 

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