マレーシアの唯一の欠点
ジャングルの中にある「ブループール」、確かに滝壺の水が青い。
「マレーシアはええところ。気候は温暖やし、食べ物はまあまあ美味いし、人々は穏やかな性格やし、おまけに英語は通じるし。けど・・・」
「けど?」
「ビールが飲めへん。」
数年前、ペナンとクアラルンプールに居たときに困ったこと、それはビールを飲める場所が、なかなか見つからなかったことだ。理由は簡単、マレーシアはイスラム教徒の国、酒はご法度である。気候が暑いだけに、冷たいビールをキュッとやりたい気持ちがつのる。ようやく、チャイナタウンでビールを飲める店を見つけたときはホッとした。入ると、外国人旅行者の若者たちがたむろしていた。
七つの滝を見た後、今日は車があるので、僕たちは地元のレストランで食事をすることにした。娘がインターネットで、「安くて美味しい店」を探し、夜の七時ごろ妻の運転でその店に行った。そこは、砂浜の近くにあり、「屋根はあるけど壁はない」というお店。メッチャローカルな、三十席くらいの食堂だった。妻が、
「ビールないの?」
とウェイター役の、Tシャツと短パン、サンダル履き、真面目な印象の少年に聞いている。
「アルコールはありません。」
やっぱりね。それで、僕はパイナップルジュースを注文する。これ、本当に、パイナップルをその場で絞ったものなのだ。ちょっと塩気がある。
「いける!」
僕たちは、ココナッツライスや、鶏肉のシチュー、麺の入ったスープなどを注文する。ココナッツライスは、きれいな緑色をしていた。どれもいい味。娘が良い店を探したのか、この辺りでは、どの店でもこんなに美味しいのか。
金を払う段になって、またびっくり。払った後、日本円に換算してみると、三人で千五百円だった。厨房の方を覗いてみると、ウェイターの少年のお父さんと思われる中年の男性が、汗をかきながら中華鍋を振っていた。
翌日も、僕と妻はまたその店に行った。例によって、パイナップルジュースを飲み、「ナシ・レマング」(ココナッツライス)を食べ、千円ほどの金を払って外に出る。そのとき、例のウェイター役の少年が、車まで僕たちを追ってきた。どうしたんだろう。
「明日の金曜日は、休みですから・・・また、土曜日に来てください。」
と彼は言った。
「ありがと。」
なるほど、イスラム教国では、金曜日は礼拝の日。お休みなのである。実は、翌日シンガポールに戻ることになっていた。僕たちがこの店を訪れることは、もう一生ないだろう。
緑色がきれいなココナッツライス。カラフルな容器も可愛い。