シンガポールのスーパー銭湯

 

孫の相手、一番疲れが取れるかな。

 

「疲れてるのに眠れない。」

それが時差ボケというもの。ベッドの中でため息をつく。シンガポールと英国の間には八時間の時差がある。ホーカーセンターでの夕食の後、ワタルが妻と僕をホテルまで送ってくれた。疲れていたので、午後九時過ぎだが、そのままベッドにもぐり込む。しかし眠れない。真夜中に、買っておいた酒を飲み、睡眠剤を飲む。それでも眠れない。結局。眠りについたのは、午前二時頃だった。それでも、英国では午後六時、まだまだ寝る時間ではない。

「英国では何時って考えないで、現地の時間に頭を切り替えて生活しよう。」

と思うが、最初の数日はそれも難しい。また、年齢を重ねるにつれ、時差調整が難しくなってきている。

 翌朝、九時半ごろに起き出して、妻と一緒に、階下の食堂に朝ご飯を食べにいく。昨夜、ホーカーセンターでたくさん食べたので、胃が重い。バフェットの中に「麺コーナー」があったので、そこで麺を注文することにする。自分の食べたい麺を選んで、それを丼に入れ、担当のおじさんに渡す。彼は、それを小さな柄の付いたザルに入れて、熱湯で茹でてくれる。

「兄ちゃん、スープはどれにするかね?」

と聞かれる。スープは、オレンジ色の「ラクサ」と透明の「清湯」(ちんたん)がある。僕は「清湯」を頼んだ。ホテルに滞在している間、僕は毎朝麺を食べて、すっかりこの親爺と仲良くなってしまった。

 その日、息子が、僕たち夫婦と娘のスミレを、スーパー銭湯に連れて行ってくれた。スミレは一日前にシンガポールに到着し、息子のマンションに泊まっている。息子はその日、休みを取ってくれていた。

「パパとママは長旅で疲れているだろうから、今日は温泉でゆっくりしよう。」

という、息子の心遣いが有難い。スタジアムの一角にあるそのスーパー銭湯は、基本的に、日本のそれと変わりがない。浴槽がいくつかあり、サウナ、蒸し風呂があり、休憩エリアや仮眠エリアがあり、食堂がある。夏に、博多駅前のスーパー銭湯で過ごしたが、ほぼ一緒。

 エンゾーと「修験者ごっこ」あるいは「ひょうきん懺悔室ごっこ」をして遊ぶ。エンゾーを立たせておいて、

「エンゾー、いくよ、覚悟できた?」

そう言っておいて、頭から洗面器でジャバーッとお湯を掛けるのである。そのたびに、エンゾーはキャッキャッ言って喜んでいる。ご存知の方も多いと思うが、三歳くらいの子どもたちと遊ぶと「エンドレス」なのだ。

「アゲイン!」「アゲイン!」「アゲイン!」

何十回やったことだろう。視線を上げると、注意書き目に入った。

「節水にご協力ください」

 

ホテルの近くにあるシンガポール植物園の中。都会のオアシスと言える。

 

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