明日ありと思う心の仇桜

お寺の良さを楽しむには人の少ないことが条件。その点、ここは静かで最高の場所。

 

この前ノーベル賞の受賞者が発表されたよね。今年も二人の日本人、大村さんと梶田さんが、ノーベル賞をもらうことになりました。僕が日本へ帰ったときは、そのニュースが日本のマスコミを賑わしていた。インドでは、マザー・テレサが、一度ノーベル賞平和賞を貰っているよね。いずれにせよ、その国にとっては誇りになる大ニュース。ところで、僕のハイスクールの同級生にO君という大学教授で工業化学の研究者がいるの。毎年ノーベル賞受賞者が発表される季節になると、O君がノーベル賞を貰わないかなと密かに期待してしまう。ロサンゼルスから帰国しているYさんと、そのO君で金曜日の夜、一緒に飲むことになったの。Yさんは女性、彼女も中学の同級生。飲み会は題して、「O君ノーベル賞残念会」!

Yさんとはその日の午後早めに落ち合って、散歩をすることにしてた。彼女が選んだ場所は東山にある「青蓮院」というお寺。インターネットで調べると、山の上の別院まではかなり歩かないといけないので、

「歩きやすい靴を履いてきてね。」

Yさんにテキストを送っておいた。

午後二時、地下鉄の駅でYさんと落ち合い「東山」という駅で降りて、青蓮院へ向かった。なかなかシックなお寺。庭も建物もしっくりと落ち着いていて、何より観光客が少ないのが良かった。自分が観光客の癖にこんなことを言うのも変だけど、京都は今観光客が多すぎる。京都の名所ナンバーワンとツーの清水寺の舞台や金閣寺へ行こうものなら、人でいっぱい。外国人観光客の半分を占める中国人の、声高な中国語で溢れている。それって、ちょっとお寺で心を落ち着けるという雰囲気じゃないよね。その点青蓮院は、縁側に座って庭を眺めていても、庭を散歩していても、落ち着いた気分で、その美しさを満喫ですることができてよかった。

建物の中を歩いているとき、段差か何かにつまずいてYさんが派手に転んだ。僕と傍にいた外人さんが駆け寄る。

「大丈夫、大丈夫。」

そう言ってYさんは起き上がった。Yさんは一ヶ月ほど前、「セグウェイ」に乗っていて派手に転んで、打撲で二週間ほど寝ていて、日本へ来るのが危ぶまれていたの。その後は、何となく気になって、段があると、思わず手を差し伸べてしまう。

「何か八十三歳の母親と一緒にいるみたい。」

と僕。

青蓮院の庭に出ると、日本の有名な僧である親鸞(しんらん)さんの歌碑が立っていた。

「明日ありと 思う心の仇桜 夜半に嵐の 吹かぬものかは」

分かりますか、この意味。

「今きれいに咲いている桜を、明日もまた見られると思って安心していると、夜中に嵐が来て散ってしまうかも知れない。明日自分が生きているとは限らない。だから今日を精一杯生きなければ。」

ってこと。良いお言葉です。英語で近い表現は「Never put off until tomorrow what you can do today」かな。インドには、これに似たことわざないのかな。

 

庭にあった、親鸞さんの歌碑。この歌を知ったことが今回の京都訪問のひとつの成果かな。

 

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