夕焼けの京都
四十分の山登りの苦労が報われる景色。汗をかいた肌に風が心地よい。
青蓮院の後ろは山になっているんだけど、その山頂に「別院」というのがあって、そこへ行くこと決め、Yさんと僕は受付で貰った簡単な地図を頼りに歩き出した。途中から、登山靴と杖がいるほどの山道。僕はスポーツシューズだからまだ良いが、Yさんは底の薄いパンプスを履いてる。
「だから歩きやすい靴を履いてきてねって言ったでしょ。」
「でも、私美容院の帰りなのよ。」
それって返事になってるの。そんな会話をしながら山道を登った。暑くなってきたので、二人とも上着を脱いでTシャツ姿。なぜかYさんばかりが蚊に刺されてる。
「蚊だって、女性の血の方が美味しいの知ってるんだよね。」
四十分くらいかかって、山頂に着いた。かなり汗をかいてる。「将軍塚青龍殿」の門をくぐる。建物の向こうに、京都の街が見下ろせるステージがあった。清水寺の舞台に似ているが、高い場所にあるので、もっと眺めが良いし、なにしろ人が十人以下しかいないのが良い。
「わあきれい。」
吹き抜ける風が、山登りで汗をかいた肌に気持ちがよい。Yさんと僕はそこで、京都の街の眺望を楽しんだ。この寺の拝観は五時までだという。もう五時に近い。
「で、どうやって下に下りるわけ。また歩くかい。」
「まさか。」
それでタクシーを呼ぶことにしたの。タクシーを待っている間に、展望台から夕日をバックにした京都の街を見る。雲の配列が理想的、まれに見る完璧な夕焼けだった。
十分ほどでタクシーが迎えに来る。
「お客さんどちらから。」
という運転手の問いに、僕が答える。
「こちらはロサンゼルスから、僕はロンドンから。」
「ええっ、そんなに離れていて、どんな夫婦生活してはるんですか。」
「夫婦じゃなくて、同級生なの。」
とYさんが説明した。
O君と待ち合わせている三条に着いたのが五時半。まだ約束の時間まで一時間ほどある。その間ふたりで飲んでいることにした。「英国式パブ」に入る。ビールを注文して、
「O君が来る前に、ベロベロに酔っ払おうぜ。」
と僕。
「こらあ、O。今年もノーベル賞あかんかったやないか。どないなってるねん。こっちかて何時までも生きてられへんで。ちゃんと研究しとるんかい。」
Yさんが酔った振りをしてそう言った。横山やすし、当然知らないよね。
六時半に、約束をしていた、「日本式パブ、居酒屋」に行く。O君はまだ来てないみたい。
「小さすぎて分からへんだけやろか。」
とYさんが言った。O君は小柄な人なのだ。
これを見ただけでもここへ来る価値のある夕焼け。