祇園祭の舞台裏

新幹線の形をしたトレーが注文した寿司を運んで来てくれる。注文もタッチスクリーンというハイテク。

 

宇奈月温泉から帰った日の夜、義父母と近くの「回転寿司」に行ったの。回転寿司というのはカウンターの上に小さなベルトコンベアがあって、そこに小さな皿に乗せられた寿司が回っている。それを皿ごと取って食べる。知っているって、最近はロンドンにもいくつかできたもんね。寿司は値段によって違った色の皿に乗ってて、最後にその皿の枚数を数えてお勘定を済ますわけ。でも、自分の食べたい寿司がなかなか回ってこないこともある。その場合は、タッチスクリーンで注文する。すると、シェフが僕の注文した寿司を作って、「新幹線」が持ってきてくれるんだ。冗談じゃないよ。つまり、寿司のコンベアには二系統ある。そのうんと早い方のコンベアのトレーが、本当に新幹線の形をしている。これには笑ってしまった。

金沢から戻った日の夜、僕は祇園祭のスペシャリストのKさんとお会いして、一緒に食事をしたの。Kさんはハイスクールで僕の二年上、退職後、大学院で民俗学、特に京都の祭りの研究をしておられる。日本には有名なお祭りがいっぱいある。その中でも、「日本三大祭」は京都の「祇園祭」、大阪の「天神祭」、東京の「神田祭」でしょ。京都三大祭というと「祇園祭」、「葵祭」、「時代祭」。どちらにも入ってしまう祇園祭はまさに「祭の中の祭」。毎年七月、大勢の人に引かれる「鉾」と呼ばれる大きな車が何十台も、京都の目抜き通りをパレードするという大規模なもの。何事も地味な京都にしては、珍しく派手なイベント。十世紀から延々と千年間続けられてるお祭りなの。

Kさんは研究されるだけではなく、参加もされている。今年も、さすがにお歳なので鉾は引っ張られなかったが、「綾傘鉾」という鉾の「介添え役・アシスタント」として行列に参加されたという。また同じ大学の民俗学を専攻する学生さんも、多数ボランティアとして参加したんだって。

「お天気はどうでしたか。」

「台風でした。」

「ええ?!」

当日は、台風が京都の西に上陸し、風雨の中でパレードが行われたんだって。でも、鉾と言うのは、「動く文化財」なの。雨にさらされて大丈夫なのだろうかと思ってしまう。

「天気が悪いということで文化財的に貴重な飾りは外していったのですが。皆、難破した船の乗客のようにずぶ濡れでしたね。私の着ていた裃(かみしも、一番フォーマルな着物一種)のクリーニングが三万円。全部で何億円という金がクリーニングに消えたでしょうね。」

僕はこれまで不思議に思っていたことをKさんに聞いた。

「鉾を作ったり、修理したり、巡行させたり、それと、例えばそのクリーニング代とか、とてつもないお金が必要ですよね。それ、どこから出ているんですか。」

「一応文化財だから、半分くらいは国から補助があるんだけど、残りの半分は、担当の町内が負担している。寄付を募ったり、見物席を作ったりして。」

「それで賄えるんですか。」

「いや、金のない町内があると、そこの鉾は何年も、何十年も、ときには何百年も祭に参加しないことがある。」

とのこと。お祭は、数多くの人々の自己犠牲の上に、成り立っているってことが、その時分かったの。

 

これが祇園祭の「鉾」のパレード。鉾の通る道には地上に電線がない。

 

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