歌うお医者さん
ドイツ語サークルのピアニストの方も参加されている、石川県を舞台にした「オペラ」。
K名誉教授の主宰される、オンラインドイツ語授業を受け始めて三年が経った。K先生は、僕が金沢大学で独文科の学生だったとき、若手、新進気鋭のドイツ語の先生。修士論文の審査委員の中におられた記憶がある。卒業以来、三十年近くお付き合いがなかったが、三年前、友人の紹介で、二週間に一度開かれる、オンライン授業に参加することになったのだ。そのうち、先生の奥様が、高校で、僕の妻の同級生だったことも分かり、先生とのご縁の深さを益々感じた。
僕以外の生徒さんは、皆、金沢か、その近郊に住んでおられる。年に一回か二回「オフ会」があるらしいのだが、今回そのクリスマスパーティーに参加させていただくことになった。と言うか、そのパーティーの日程に合わせて、金沢に来る段取りをしたのである。
僕が金沢に来て二日目。その夜、貸し切ったフランスレストランに集まったのは、先生と十人の生徒さんだった。女性が多く、生徒さんの平均年齢は結構高い。(僕でも真ん中くらいなんだから。)
「金沢近郊に、大人になってもドイツ語を勉強したい人が十人もいるなんて。」
まず、それが驚きであった。また、その方たちが、どんな動機で、どんな目的で、ドイツ語を勉強されているのか非常に興味があった。先生のクラスには、僕のいる上級の他に初級、中級のコースがあるらしく、半分くらいの生徒さんとは初対面である。
僕の横に座られた紳士、F先生は目のお医者さん。
「どうしてドイツ語勉強されているんですか?」
と尋ねると、何と、
「ドイツの歌曲を歌うため。」
とのこと。何と、ご自身のリサイタルも開かれた「歌うドクター」だった。F先生は食事の後、シューベルトの「菩提樹」なんかを、朗々と歌われた。そのとき、伴奏されたのが、Yさんという若い女性。彼女はプロのピアニスト。今日も、キーボードを担いで来られたとのこと。
「なんて芸達者な集団なのだ。」
と感心する。Kさんという、僕と同世代だと思われる女性に、同じ質問をしてみる。
「バッハに魅せられて、『マタイ受難曲』を歌うためです。」
というお答え。
「ヒェ〜、参りました。」
という感じ。
「シュティーレ・ナハト、ハイリゲ・ナハト〜」
「オー、タンネンバウム!」
ドイツ語で、「きよしこの夜」や「もみの木」を皆で歌って、パーティーの時間は過ぎて行った。冬の金沢に現れた、不思議なドイツ語の空間だった。
義母が作ってくれた、晩ご飯みたいな朝ご飯。朝からブリ!