雪の墓参り

 

ずわいがいの握り。ポロリ、涙が出るほど美味い。

 

 義弟と会った夜、僕は義母と近くの回転寿司に行った。これは、僕が義母の家に泊ったときの「伝統行事」でもある。

「北陸では、回転寿司と言って侮るなかれ。」

石川県の回転寿司はネタがいいので、関西の高級寿司屋以上の味が楽しめる。義母と向かい合わせに座り、熱燗を飲みながら、寿司をつまんでいると、懐かしさがこみあげてくる。僕はかつて、八年間この町で暮らしていたのだ。そのとき嗅いだ、冬の金沢の匂いがする。ズワイガニの握りを頼む。シャリの倍はある蟹の身が三本乗っていた。

「やっぱ、冬の蟹は最高!」

蟹味噌の「軍艦」もいける。甘口の「福正宗」も懐かしい味。

「美味い!涙が出る。」

 翌朝目を覚まして、窓の障子を開けると、雪景色だった。僕は、義母が作ってくれた朝食を食べる。その後、亡くなった義父の長靴を借りて、家の前の道路の雪かきを始めた。道路に積もった雪を、プラスチックの大きなシャベルで、ブルドーザーみたいに押していき、家の前の溝にポチャンと入れる。十二月の雪ということで、まだ水気が多く、結構重い。

「久しぶり、この感覚。」

昔は、下宿のおばさんや、アパートの大家さんなどに頼まれて、よくやったものだ。金沢の街は、雪を捨てやすいように、道路に側溝が掘られている。京都から来た僕は、雪が珍しく、当時は結構喜んで雪かきを引き受けていた。

「カワイくん、助かるわ。」

と大家さんに感謝されたものだ。

 さて、次に会うのは、今年二月に亡くなった娘のミドリである。ミドリの遺骨は、金沢の大乗寺山の中腹にある、妻の家の墓に納められていた。

「お墓、行ってきます。」

雪かきを終えた僕は、義母にそう声を掛け、長靴を履いたまま、大乗寺山に向かって歩き出した。まだ雪かきが終わっていない道路もあり、歩きにくい。雪は止み、雲の間から薄日が漏れ出した。すると、電線や木の枝に積もった雪が突然落ちて来る。これが冷たい。横を車が通ると、シャーベット状の雪を跳ね飛ばしていく。山道をヒーコラ登り、三十分ほどで、墓に着いた。雪の上に足跡は全然なく、墓石は皆雪の帽子をかぶっていた。

「本当に長い一年やったなあ。」

僕は墓の前で手を合わせながら思った。娘の亡くなった日が、もう五年も、十年も前のことのように思える。

「まだ同じ年なんや。」

それが不思議だった。僕は、早くこの年が終わって、新しい年になることだけを願っていた。

 

雪の中、「遭難」しないで、無事、山の中腹のお墓までたどり着けた。

 

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