よかったね
列車が湖西線に入ると、雪をかぶった比良山が見える。北陸に向かうほどに、雪はどんどん増えていく。
「やった〜、終わったあ。」
土曜日の夜、今年最後の授業が終わった。明日からはクリスマス休みで、学校も、個人レッスンも年内はない。
翌日の日曜日の朝、僕は、金沢に向かった。病気で長く入院していて、数週間前に退院してきた義弟を見舞うため、それと、金沢大学の名誉教授が主宰されるオンラインドイツ語講座のクリスマスパーティーに参加するためである。金沢までは高速バスで行く予定をしていた。しかし、北陸は雪。北陸自動車道は速度制限が実施されていた。それで、前日急遽、JRで行くことに変更した。今年、北陸新幹線が敦賀まで延長されたのにともない、京阪神から金沢に行く場合、敦賀で、在来線から新幹線に乗り換えなければならない。僕が最近高速バスを使うのも、この乗り換えが面倒だから。乗り換え時間はわずか八分。敦賀で乗り換えるのは初めて。最初違うホームに行ってしまい、気が付いて、また戻って、正しいホームに駆け上がったときには、もう発車ベルが鳴っていた。
「心臓に悪いわ。足の不自由な人やったら、完全にアウトや。」
ブツブツ言いながら、何とか金沢行の新幹線に乗り込む。
正午前に金沢に着く。鉛色の空に雪が舞っているが、道に雪は積もっていない。バスに乗り、妻の実家に行き、義母と再会を果たす。義妹と義弟は、二時頃に来ることになっていた。先にも書いたが、義弟は病気で三か月くらい入院し、治療を受けていた。退院してきて、今は自宅で静養している。
少し遅れて義妹と義弟が到着。玄関で出迎える。
「元気そうやん。」
これは、正直な気持ちだった。三か月間、結構大変な治療を受けていたと聞いている。少し痩せたが、そこにいたのは、いつもの、僕の知っている彼だった。
「わざわざ来てくれてすまんかったね。こっちから行ったのに。」
「ずっと家にいるもんで、たまに外出するのも、気分が変わってええ。」
と義弟。彼から、この半年の、病気が見つかり、入院し、治療を受け、退院するまでの話を聞く。
「よう頑張ったね。」
何度も心が折れかけたそうである。
「でも、帰って来れて、ホント、よかったね。」
別れ際、僕が言う。
「次は一緒に温泉行くよ。」
義弟は笑って行った。
「よっしゃ。」
金沢に着いた翌日、雪の朝を迎える。