立ち飲み

 

Sちゃん御用達、三条のお蕎麦屋さん。

 

 次に会ったのは、従妹のSちゃん。Sちゃんは一歳年下、家が近かったので、小学生のときまでは、兄妹のような関係だった。父が僕を遊びに連れて行くとき、よくSちゃんを誘ったし、Sちゃんのお父さんがどこかに行くとき、よく一緒に連れて行ってもらった。

二十日の昼、彼女と四条の大丸で待ち合わせて、まず向かったのは「錦市場」。「錦」は、四条通の一筋北にあり、両側に食料品店が並ぶ、「京都の台所」と言える場所であった。「あった」と過去形で書いた理由、それは、近年、外国人観光客向けの、中で飲み食いできる店が増え、京都市民を相手にする「普通のお店」は、少数派になってしまったという。

「どないなってるか、一度見てみたい。」

という僕の希望が通って、僕たちは、まず「錦」に行くことになったのだ。

「なるほど、金沢の近江町市場と一緒や。」

僕は思う。通りを歩いている人の半分は外国人、店の半分はそんな外国人向けの店であった。それでも、出汁巻き屋さん、漬物屋さん、乾物屋さんなど、何軒かの店は今も頑張っておられる。僕は出汁巻きを、Sちゃんは鰹節と漬物を買った。

 錦市場を出た僕たちは、寺町通のアーケード街に出る。暮れだというのに、意外に静かだった。寺町通を「上がり」(北に向かって歩くことを京都では「上がる」と言う)三条通に出る。そこで、「田毎」(たごと)というお蕎麦屋さんに入った。このお店、僕は初めてだが、Sちゃんは街中に出ると必ずと言っていいほど来ているお店。彼女が毎回「たぬきうどん」の写真を撮って送って来るので、僕にとっても何か「馴染みの店」という感じだ。Sちゃんは「たぬきうどん」、僕は「鴨なんば」を食べる。おそらく、昆布や鰹など、複数の素材から取った出汁だと思うが、その組み合わせが絶妙。Sちゃんではないが、本当に一度来たら癖になる味であった。

 蕎麦を食べた後向かうのは、京都市役所前にある「立ち飲み屋」。昔は、酒屋さんには、小さなカウンターがあって、「するめ」などちょっとしたつまみが置いてあった。仕事帰りの親爺たちが、店頭で立ったままコップ酒を飲むのが、どこでも見られる光景だった。市役所前の地下広場に入って行くと一軒の酒屋があり、半分が販売コーナー、もう半分が立ち飲みコーナーになっていた。

「今日、これから仕事が入ってるんやけど。」

などと言いながら、飲んでしまう僕。仕事は七時から、まだ午後二時だから、大丈夫だろう。しかし、午後二時から飲む酒というのも・・・いいもんだ。ボーイッシュなお姉さんが、日本酒をコップについでくれ、そのコップはもちろん木の升の中に。「てんこもり」につがれた酒がこぼれても、升から飲めばいい。お金は先払い。

 僕たちが飲んでいると、七十歳後半だと思われる、男女二人ずつ、四人のグループが現れた。皆が五百円くらいを出しあい、お酒を頼んでいる。仲良しお爺さんお婆さんたちの「昼飲み」。何か、すごく微笑ましい光景だった。

 

立ち飲みで昼から飲んでいた僕たち。これから仕事があるのに。

 

<次へ> <戻る>