迎賓館

 

迎賓館のバンケットルーム。壁は緻密な織物で、絵ではない。

 

次に会ったのは、これも高校の同級生のY子さんである。GくんとMくんと飲んだ翌日、僕は北野白梅町の小さな洋食屋で彼女とランチをした。

「懐かしい味やね。」

十人も入れば満員になる小さな店で、二人とも「ハンバーグ・エビフライ定食」を食べた。奇を衒わない、デパートの食堂で食べるように、万人に愛される味だった。

「御所の中の迎賓館、行ったことがある?」

Y子さんが尋ねる。僕は行ったことがなかった。

「なかなかきれいな所よ。日本の伝統工芸の粋が集まってて。今度一緒に行こうか。」

と京都の歴史が好きな彼女が言う。その場で携帯で調べてみると、迎賓館の公開は十二月十八日まで。つまり、後三日間だけ。ツアーに参加するには予約がいるのだが、十二月中はもうフルに埋まっていた。

「残念ね。じゃ、今度、きみがまた来たときね。」

ということになり、その日は別れた。

家に帰って、改めて迎賓館のHPを調べてみると、翌日の外国人向けの「英語ツアー」がまだ一人空いているではないか。修学院離宮などにしても、「外国人枠」は取りやすいと聞いたことがあった。そこを予約する。Y子さんにラインをする。

「明日、英語ツアーが空いていたので、迎賓館に行ってくる。」

「わあ、抜け駆け〜」

と言われたが、お許しが出た。時間は、午前十一時。

基本的に、日中は暇なのである。前週の土曜日に、学校での最後の授業を済ませてきてはいたが、その後、オンラインの「冬期集中コース」や「講師研修会」の講師の仕事が、その週ほぼ毎日入っていた。全部、英国時間の午前十時にアレンジしたので、日本時間では午後七時からの授業。晩飯を食ってから、午後十時ごろまで仕事という生活。だから、昼間はあまりやることがないのだ。

十二月十七日、僕は歩いて御所の中にある迎賓館に向かう。「清和院休憩所」という場所に十分前に集合し、そこでオーディオ機器を渡され、隣の迎賓館に向かう。日本人のガイドさんのささやくような英語が、ヘッドフォーンを通じて聞こえる。ツアー参加者は僕を入れて十六人。「外国人枠」なので、全員「非日本人」ということになる。中は素晴らしかった。

「あれれ、この人たち、ガイドさんの説明聴いてへん。」

間もなくそれに気付いた。僕以外の十五人は皆中国人で、首から「タブレット」をぶら下げている。そこに表示される中国語の説明を、食い入るように読んでいるのだ。と言うことで、ガイドさんの英語の説明を聴いていたのは僕一人。ガイドさんにいくつか質問をした。もちろん彼女をリスペクトして英語。日本人同士で英語を話すって、何となく変な気分。

 

中庭。中国人のお姉さんに中国語で頼んだら撮ってくれた。

 

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