言いにくい病気

 

「京都中国料理」と言うが、実際本場の北京料理は薄味で京料理に似ていた。

 

病院での検査の後で、

医者:「あのう、言いにくい病気なんですが・・・」

患者:「なんですか、先生!!」

医者:「『こつそしょうしょう』です。」

確かに言いにくいわ。Tさんのギャグに僕はバスの中で大笑いをした。彼女は落語が大好きで、ときどき、落語家の独演会とか、襲名披露まで顔を出しておられる。そして、「この人は面白い」という落語家や、「このネタは面白い」という演題、「これは絶対笑う」というギャグを教えてくれる。数カ月前、彼女から、柳家喬太郎さんの「午後の保健室」が面白いというので聞いた。これがまた抱腹絶倒で、滅多に東京落語を聴かない僕も、喬太郎さんだけはユーチューブで好んで聴くようになった。本でも、音楽でも、落語でも、こうやって時々勧めてくれる人があるのは有難い。

話は変わるが、「京風中華料理」がいうのがある。昔、鴨川の畔に「鳳舞」というレストランがあった。まさに「京風」、京都人が好むように、脂っこさ、味の濃さを抑え、食感を大切にした中華料理だった。亡くなった父が好きで、京都へ帰るといつもそこに食べに連れてくれた。僕にとってそう言う意味では、「鳳舞」は「父の味」なのである。僕は特に「皮蛋(ピータン)」が好き。店に入るやいなや、

「ビールと皮蛋!」

と父が注文してくれたのを思い出す。数年前に取り壊され、そこに今はマンションが立っている。なくなった店なので言っちゃう。予約は取らないので、混んでいるときは外で待たなければいけないし、接客のおばちゃんが高圧的で、ぞんざいな態度と言葉遣い。しかし、なおかつ、行列ができ、気難しい父が贔屓にしたのであるから、確かに味は良かった。

 その料理店で働いていたコックさんが、新たに店を出したという。その名も「鳳舞楼」。そのことを雑誌で知ったTさんが、一度「調査」に訪れたところ、ほぼ昔のままの味だった言う。Tさんも僕と同じく、「鳳舞」で家族とよく食事をしたとのこと。

 英国に戻る前日、Tさんと僕はお昼に、その「鳳舞楼」に行ってみる。昔のように「皮蛋」を頼んでみた。

「懐かしい・・・お父ちゃんと食べた味や。」

シューマイ、春巻き、名物の「からしそば」(撈麺)、昔と変わらぬあっさりした美味しさ。

 その後、Tさんと僕は「虎屋」へ行った。羊羹で有名な「虎屋」は、東京の店だと思っていたが、元々は十六世紀に創業した京都室町のお店。東京遷都とともに東京にも進出したのだという。庭に面したティールームで、栗羊羹を食べ、抹茶を飲む。青い空、澄んだ空気、何て気持ちの良い瞬間なのだろう。

「ふたりとも頑張ったから、ご褒美にもらった時間なのよ。」

Tさん、なるほど、そんな気がする。

 

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