銭湯の客
僕の憩いの場所、船岡温泉。(同温泉のホームページより。)
「京都で一番の銭湯」ということで、今や、京都の観光名所になってしまった鞍馬口通の船岡温泉。母の家から歩いて一分以内という地の利もあって、今回も京都滞在中は、ほぼ毎日、五時から六時までの一時間をそこで過ごした。
「良い銭湯が家の近くにあって、本当にラッキー!」
また、他のエッセーに何度か書いたが、サウナの中などで、外人さんと話をするのが楽しみ。これが本当の「裸のお付き合い」、「裸のコミュニケーション」。
たまに、ドイツ、オーストリア、スイスの北部など、ドイツ語圏の人と出会う。最初、英語で話していて、どこから?という話になって「ジャーマニー」と言われたとたん、ドイツ語に切り替える。そのときの、相手方の驚いた顔が面白くて、癖になってしまう。今回も、サウナでドイツ人と会った。そのおじさん、サウナの中で、ドイツ語のペーパーバックを読んでいた。それなら、こっちも最初からドイツ語。
「ドンナヴェター(こりゃたまげた)、ここでドイツ語を話す人と会うとは思ってなかった。」
と、何時もの反応に出会う。
「お仕事は?」
と聞いて、驚いた。
「カールスルーエの連邦憲法裁判所の判事。」
という答えだったから。連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht)というのは、日本でいう最高裁判所に当たる。まあ、銭湯で色々な人たちと会ったけれど、最高裁判所の判事さんとご一緒したのは初めて。立命館大学の招聘で、講演に来られたそうである。
翌日、銭湯へ行くと、番台で、男性がフランス訛りの英語でおばちゃんに何かを話している。息子さんだと、英語を少し話されるのだが、おばちゃんは英語が話せない。
「Can I help you?」
と言うことで、聞いてみると、今宮神社へ行く道を知りたいとのこと。
「ここを出て、左に曲がって、最初の赤い鳥居を左へ折れて、真っ直ぐ行くと大きな通りに出て、そこの向こうにオレンジ色の建物が見える。それがイマミヤ・シュラインです。」
と英語で説明する。おばちゃんが、メモ用紙と鉛筆を取り出し、
「これに書いたげたら?」
と言う。良い考え。僕は地図を書きながら、もう一度説明を繰り返した。
礼を言って、外国人の男性が出て行った後、
「有難う、助かったわ。あんた、英語上手やね。」
とおばちゃん。
「僕、斜め向かいのカワイの息子なんです。」
「あんたかいな、ずっと外国に住んでる人。そら上手いはずや。」
何時も気持ちの良い思いをさせてもらっているお風呂屋さんに、何かお返しできてよかった。