タフな人たち
大徳寺境内。観光地もいいけど、やっぱり静けさは捨て難い。
降り出した雨の中、僕たちは居酒屋を出る。息子夫婦とハンさん夫婦を旅館まで送って行った。息子たちの翌朝の出発が早いので、もう会えないと思い、
「じゃあ元気でね。」
と言おうとした。
「パパ、そこまで一緒に行こう。お祖母ちゃんの家の近くの飲み屋で、友達と待ち合わせているから。」
とワタル。
「ええっ、まだこれから飲みに行くの?ゾーイ、あんた、今日の午前中、調子悪かったんやろ?」
と思うが、口には出さずに一緒に歩き出す。タフというか、元気な人たちである。母の家の近くの飲み屋には、確かに四人の見慣れた顔が。そこで、息子夫婦と別れる。
「モトのオーガナイズは完璧だったわ。本当に有難う。」
とゾーイ。そう言われると嬉しい。ゾーイの両親は、明日シンガポールに戻られるが、ふたりは、三日間「熊野古道」を歩くという。若い二人なのに何となく渋い計画。
「ハネムーンなの?」
と聞くと、
「ミニムーンね。」
とゾーイが笑いながら言った。
僕の「仕事」は、翌日、ふたりのスーツケースを宅急便で関西空港に送っておくこと、ハンさん夫妻を、午後、京都駅まで送り、関空行の「はるか」に乗せるだけになった。家に戻り、
「ゾーイとワタルはまた飲みに行った。」
帰って母に言ったら、母もあきれていた。
「若い人は疲れを知らんとは言うものの、本当に大丈夫なの?」
「知〜らない。」
さて、翌朝六時、スミレとヴァレンティンは迎えに来たタクシーで去り、僕はまた布団に戻って少し眠る。九時半に旅館へハンさんとエレンさんを迎えに行く。彼らのスーツケースと、ワタルとゾーイのスーツケース、計六個をゴロゴロと転がしながら、母の家に着く。午後二時の列車の時間までには。まだ時間がある。
「じゃあ、この辺り、ちょっと散歩に行きましょうや。」
僕とハンさん夫婦は歩きだした。ふたりとも観光地ではなく、ごく普通の道を歩くことに興味深そうである。僕もそう、どこか別の国に行っても、観光地ではなく、普通の道を歩いて、道行く人を観察するのが結構面白い。僕たちは大徳寺に入った。
「禅のお寺で、メディテーション(瞑想)でもしてみますか?」
僕はふたりに尋ねた。オーケーとのこと、僕たちは大仙院に入った。
大徳寺大仙院は、一週間前にスミレもミドリも訪れ、良い所だと言っていた。