眠れない夜
ダイニングルームで新郎新婦の登場を待つ。
遠路参加された方に、
「日本は初めてですか?」
と聞いてみる。大部分の人が初めてだった。
「日本へは一度行ってみたかったんですが、これまでチャンスがなくて。でも、ゾーイとワタルの結婚披露宴があると聞いて、日本へ行くことを決めました。」
そんなパターンの方が多かった。皆さんが、前後に一週間から十日くらいの日本観光を組んでおられた。
「なるほど、このパーティーは、お友達が日本を訪れる、ちょうど良いきっかけを作ったんだ。」
基本的に、ヨーロッパでは、結婚のお祝いに現金を渡すという習慣はない。新郎新婦はウェッブサイトに、自分の欲しい物を載せておく。お祝いをしたいという人は、自分の財布と相談して、そのリストの中の物を選びカードで払うのだ。その選ばれた物はリストから消えるという仕掛けになっている。ゾーイとワタルのウェッブサイトでは、来年予定している、南アフリカへのハネムーンの、部屋やオプショナルツアーがリストに載っていた。いずれにせよ、今回海外から参加いただいた方は、交通費、宿泊費で何十万円も使っていただいているのである。その上でお祝いをというのは、ちょっといただきにくいよね。
パーティールームからダイニングルームの間の扉が開かれ、ヴァレンティンのピアノが聞こえてきた。
「皆さま、ダイニングルームにお進みください。」
というアナウンスが日本語と英語で入る。ダイニングルームには、円卓が十個置かれていて、一卓に四人から五人が着席する。新郎新婦の両親は正面のテーブル、他のテーブルは、同じ国から来た人、カップルが同席できるようにアレンジされていた。
新郎新婦がなかなか現れない。予定時間から十五分経った。心配になって控室へ見に行くと、洋服から和服への着替えに手間取っていた。一卓ずつ回って、
「ごめんね。和服への着替えに思ったより時間がかかっちゃって。あと十分ほど待ってね。」
と皆に伝える。
いよいよ新郎新婦が和装で登場。打ち掛け、ゾーイが「夢に見た」姿である。その後は、定番。乾杯、食事の開始、シェフの料理説明、ケーキカット、友人代表スピーチ、父親スピーチ、新郎新婦からのお礼の言葉と続く。披露宴は七時半に終わった。
僕は義母と甥と一緒に八時ごろに会場を後にした、若い人々は夜中盛り上がっていたという。翌日からも結構「観光ガイド業」で忙しいので、妻の実家に帰った僕は、早めに眠ろうと思った。しかし、朝の三時半まで眠れなかった。色々な人と話して、スピーチをして、アドレナリンがガンガンに出ていたのだと思う。自分では気づかなかったが、ホスト側として、結構自分を鼓舞していたのだと、眠れない布団の中でよく分かった。
「すみません、お待たせしちゃって。奥さんの着替えに手間取っちゃいました。」